とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

アップル帝国の正体

 タイトルからは「冷酷非道なアップル商法」という批判的な姿勢が感じられる。確かに本書の前半ではシャープやソニーまでも下請けにならざるをえなくなる、しかも下請け地獄から抜けるに抜け出られず、絞るだけ絞られた末に見捨てていく。そんな非情なアップル商法の状況が報告される。いわく「アップル帝国主義支配」だ。
 アップルの軍門に下ったのは家電メーカーや高度な技術を有する中小企業だけではない。家電量販店は周辺小物で儲ける道しか与えられず、ソフトバンクなどの携帯キャリアもアップルの戦力に翻弄される。iTunesに抵抗した日本の音楽業界は、結局のところ敗北に終わり、音楽不況ばかりが残された。
 だがそれはアップルが貪欲だからだけではない。ソニー・ミュージックが最後まで抵抗したのは、「着メロ」という日本独自の収益構造があったからであり、またそれ故に決断が遅れた。ソニーは携帯電話やカメラ、ゲームなどの各部門があったればこそ、それらの各機能を統合してしまうiPhoneに抵抗することができなかった。
 そしてアップルの社員たちはいつもどこでも休むことなく働き続け、調べ尽くす。そこまでやっている日本企業はなく、それゆえ負けたとも言える。過去からのしがらみに巻き付かれ、必死さでも負けていたのでは、敗北するのも当然と言える。
 その点では本書はアップルを礼賛する書籍としても読める。しかしジョブスの死以降、アップル神話には軋みが見え出している。ハードで儲けるアップルに対して、ソフトで逆転を目指す他企業の動きが目立ってきた。ジョブズ亡き後、かつてのような大ヒット商品は生まれてこず、質で勝負するプレミアム路線から廉価版による薄利多売路線へと舵を切る動きがみられる。アップル神話にも陰りが見え出した。
 個人的には「タブレット「NEXUS 7」を買ってしまいました。」にも書いたとおり、アップルを敬遠し、ガラケー+アンドロイドタブレットという廉価生活をスタートしたが、格差拡大に伴い、私と同様な選択をする人も増えるのではないか。つまりアップル離れ。
 さて、今後のアップルは業績が良い「普通の会社」になってしまうのか、それとも伝説はまた蘇るのか。今はその転換点にいるのかもしれない。

アップル帝国の正体

アップル帝国の正体

iPhoneを分解してみると、重要部品の多くを、かつてジョブズが憧れを抱いていたというソニーを筆頭に、パナソニック、シャープ、東芝などの日本企業が供給していることがわかる。かつて世界を席巻したこれら「日の丸メーカー」は実のところ、アップルに大量の電子部品を供給する下請けメーカーに成り果てたといっても過言ではないのだ。(P8)
●アップル依存に染まった日本列島の中で、彼らとの付き合い方を見直す企業も出始めている。「大量注文には、巨額投資の必要と、受注を失った時の生産設備過剰という2つのリスクが存在する」・・・そして「ほんの1年前までは、アップルのサプライヤーでなければ、市場からも評価されないという風潮だった。今度は、巨大化したアップルとの付き合いがリスクだと騒がれ始めた」と皮肉った。(P35)
鴻海精密工業グループに組立の多くを任せて、ハードウェアに関してはデザインと規格設計、技術開発などに特化する「ファブレス(工場をもたない)メーカー」というスタイルを採用した。・・・中国全土に工場を持つ鴻海グループは、アップルから部品価格に約5%の料金で製造工程を請け負っており、3%を中国人労働者の人件費に、残りの2%を利益の源泉にするという薄利多売のビジネスモデルの中で生きている。/ところが、である。アップルは、工場を抱えるリスクを最小限に抑えることで、売上高の30%を超える破格の利益を「総取り」しているのである。(P87)
●業界関係者もiTunesが設定する1曲150〜250円という価格体系について、「確かに、彼らが主張する通り、消費者目線なのは事実だろうが、アーティストが食っていけることを考えた価格設定では全くない」と断言する。つまりアップルにとって、iTunesiPodiPhoneの売り上げを伸ばす手段でしかなく、音楽に携わる人々の発展に寄与するものではない、という主張だ。(P114)
●アップルが少しずつ「量」へシフトするということは、より安価な製品を展開するサムスンと同じ土俵でも、これから対決していくということになる。そして、それはかつてジョブズの下で、徹底したプレミアム商品だけにしぼりこんで、勝ちつづけてきたスタイルではない。(P192)