とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

限界集落株式会社

 10数年前、過疎の町で2年間働いていた。職場は町の中心部にあったが、少し足を伸ばせば、高齢者しか暮らしていない限界集落がいくつもあった。タイトルを見て思わず購入したが、同時に限界集落の問題をどれだけ現実に即して書いているかという点に関心があった。たぶん非現実的だろうと。
 だが思った以上に中山間地域の実態が調べられており、全くの夢物語というわけでもない。しかし一方でかなりの幸運が集落の再生を導いており、現実にはこんなことは起こらないぞ、とも思った。
 「おれは百姓をやる」という少年の言葉に突然「ならばおれがそれを売る」と言い、農業による村おこしが始まる。農業研修生の中のオタクな一人が描いたキャラクターが全国的に注目を受け、農事法人が軌道に乗る。そして昔の仲間によるファンド投資などけっこう都合良く物語は展開していく。ここまでトントン拍子にいくのは所詮、物語と思わざるをえない。美術館やレストランはどこでも描く将来像だが、それが実現した集落はほとんどない。
 限界集落の農事法人による再生の物語と、それに関わる人々のイザコザや恋愛や傷害事件などがあって、最後は主人公の優と美穂の結婚で終わる。大団円。けっこう読ませる。中山間地域の現実が適度に織り込まれ、気楽で気楽で楽しい本である。

限界集落株式会社 (小学館文庫)

限界集落株式会社 (小学館文庫)

スローライフだとか、週末農業だとか、そういうモンが好きじゃない。人が真面目にやってるところに、遊び感覚で来やがって、無農薬だのエコだの、言いたいこと言いやがるし。今の農家は、農薬漬けの野菜作ってる極悪人みたいに思ってるやつらもいるし(P37)
●「おれは村を出ない。ここで百姓やる。じいちゃんと約束した」/フロントガラスを睨みながら話す少年の横顔は、真剣そのものだった。・・・「じゃあお前がここで新鮮な野菜を作る。それをおれが売る。うまく売って稼ぐ方法を考えてやる。こういうのはどうだ。その代わり、おまえは最高の野菜を作んなきゃいけないぞ」/ショウゴが優を振り向いた。/「おれ、それやって欲しい。(P80)
中山間地域だからこそ、小さな集落だからこそ、できる何かがあるはずじゃないか。儲かっているという理由だけで、皆が既にやってる分野に後から参入して来るやつは、所詮二流なんだ。・・・本気にやる気があって、先見の明があるやつは、他人が二の足を踏む分野で勝負を賭けるもんだ。・・・デメリットをメリットに変えるのが、経営の要諦だよ。中山間地域だって、過疎だって、考え方次第では武器になる」(P132)
●苦労してるのは、農家だけか。消費者だって、この大不況の下、リストラの恐怖に怯えながら生きてるんだ。何万人もの派遣労働者がポイ捨てされて、路頭に迷うご時世だぞ。曲がりなりにも、補助金貰って、家があって食いものにも困らない農家は、この国の底辺では決してないはずだ。そんなことばかり言ってると、大反発を食らうぞ。(P186)
●人間、平地に住んでいると、考え方がチマチマしてくるじゃないか。平らだと隣人しか見えないし、近所との軋轢ばかりが気になって、遠くが見えなくなる。そういうやつらは、未来のことより、明日のことしか考えない・・・ことろがここは、どうだ。下界を俯瞰できるんだぜ。遠くを見渡せるんだ。未来があの峰の向こうに見えてくるとは思わないか。人間は本来、平地だけでは満足できない生き物なんだ。(P262)