「ミツバチのささやき」という映画を知らない。当然、アナ・トレントも知らない。アナ・トレントの名で映画に出演し、今も現役の女優だと言う。ならば本人に訊けばいいではないか。いや、当時6歳のアナ・トレントは演出家が用意した鞄を持っていただけだろう。
そして鞄を探す旅に出る。鞄の中身が増えていく。アナ・トレントの鞄を収めるはずの鞄に詰まった中身のカタログだ。。一番気に入ったのは「サンドイッチ・フラッグ」。でも収録されているのは、世界で最初にサンドイッチに立てられたフラッグというわけではない。だって答えは「知らないねぇ」。掲載されている12本のサンドイッチ・フラッグの軸はどれも立派だ。
もうひとつ、「木のアイロン」もいい。タイトルは「やさしいアイロン」。でも実際のところ使えるのかな。「しわとじっくり話しあった結果、こうなりましたという仕上がりになる」(P93) なるほど。それもなかなか悪くない。
疲れた心に、痛む腰に、クラフト・エヴィング商會のカタログはけっこう効果がある。そうだ、ストレスを緩める膏薬はありませんか。そんなものは薬屋さんにいくらでもありますか?
- 作者: クラフト・エヴィング商會
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/07/22
- メディア: 単行本
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●探したのは、あくまで「アナ・トレントの鞄」だったが、時のパースペクティブは、魅力的でとんちんかんな寄り道をつぎつぎ用意して待ち構えている。このカタログに並んだのは、さしずめ鞄の中身ということになるのだろうか。(P4)
●時間的になのか空間的になのか、どちらかはともかくとして、鞄は人が遠くへゆくためにつくられたものに違いない。5分後に机上で使う筆箱を鞄の中に入れたりしない。筆箱は、数時間後か数日後に、ここではないどこかで使うために鞄の中にしまわれる――ということは、鞄はただそこにあるだけで、どこか遠くと結ばれていることになる。鞄が人を遠くへ誘うのだ。(P13)
●終景手帖 文字通り、ラストシーンを書きとめるための手帖。映画、小説、そして日常で。「これは終景である」 そう感じたときに――。(P60)
●空中楼閣にしか見えないインターネット上のウェブサイトにさえアドレスは存在し、地に足など着けないで自由に振る舞ってみせても、「www」と、しつこく念をおされるように居場所を定められてしまう。(P83)
●祖母が言っていた。「シャツにアイロンをかけるときぐらい、背筋を伸ばしなさい」アイロンをかけるたび思い出す。(P97)