とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

2014年、私の読んだ本ベスト10

 恒例の「私の読んだ本ベスト10」。今年は都市・建築関係の専門書をあまり読んでいない。年々減少し、今年はついに9冊。図書館へリクエスト中のものが2冊あるけど、最近は面白い都市・建築関係書が少ない。
 それで一般書を多く読んでいるかと言えば87冊。昨年の91冊よりは少ない。あまり面白い本を読んだという記憶がない。それでざっと選定してみたら15冊。うーん、今年は少しマンネリ化かなあ。「サッカー批評」が知らない間に「フットボール批評」に変わっていて、それで創刊号を読み損ねたのがショック。本に面白さを感じないというのは、本が劣化したのか、私の頭脳が劣化したのか。後者の懸念がぬぐい切れない。白内障が影響しているかもしれない。

●一般書籍・雑誌の部

【第1位】蛍の森 (石井光太 新潮社)
 読書記録に「まだ年の始めだが、今年のベスト10に入る第一級の作品だと思う。」と書いている。そして1年が経って、やはり今年のベスト1に推したいと思う。それほど面白かった。でも新聞の書評などでほとんど話題になっていないのはどういうことか。小説としては底が浅いということか。それでもハンセン病患者の過去をこのように表現したことの意義は深いと思う。断然1位に推したい。

【第2位】色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 (村上春樹 文藝春秋
 これは「何を今さら」と言われても仕方がない。図書館で予約してようやく順番が回ってきた。文庫本まで待てばよかった、いやあえて文庫本を購入しようかと思う。それほどよかった。「1Q84」が期待ほど面白くなく、村上春樹もそろそろ老境かと思ったが、「海辺のカフカ」以来、久し振りに気に入った。

【第3位】イエス・キリストは実在したのか? (レザー・アスラン 文藝春秋
 イエスとは当時多くいたユダヤ教の説教師の一人だ。原題は「革命家」だそうだが、当時そうした人は多くいた。そのこと以上に本書の価値はキリスト教はパウロの宗教だということを、西暦73年のユダヤ戦争とイスラエルの滅亡から示している点にある。学術書だがまるで小説のように面白い。時代背景からキリスト教を見ると、その成り立ちがよくわかる。

【第4位】90歳の昔話ではない。 (賀川浩 東邦出版)
 今年サッカー本の中で最大のニュースは賀川浩の本が出版されたこと。御年90歳。1930年極東大会から過去の執筆記事を掲載しているが、直近ではブラジルW杯の記事もあり、全く年齢を感じさせない内容だ。また来年も賀川浩の記事を読んでいたい。いつまでも元気でいてほしい。

【第5位】注文の多い注文書 (小川洋子・クラフトエヴィング商會 筑摩書房)
 今年最大の発見はクラフトエヴィング商會。小川洋子との共著である本書で初めてその名前を知った。その後、数冊、クラフトエヴィング商會の本を読んだが、その中で一番面白かったのは、「アナ・トレントの鞄」。でも、だんだん慣れてきたかな。
 クラフトエヴィング商會の一人・吉田篤弘「パロール・ジュレと魔法の冒険」も読んだけど、こちらはイマイチかな。クラフトエヴィング商會的世界は十分に楽しんだけど。

【第6位】だれでもわかる居酒屋サッカー論 (清水英斗 池田書店) 
 サッカー本は今年も何冊か読んだ。中でも今年の新発見、清水英斗の本は素人目線でわかりやすく文章も平易。「サッカー日本代表をディープに観戦する25のキーワード」の遠藤論もなるほど。他に、サッカー界における人種差別の問題を網羅的に取り上げた「サッカーと人種差別」も面白かった。佐山一郎「夢想するサッカー狂の書斎」で紹介されていた本も何冊か読んだ。

【第7位】ゆかいな仏教 (橋爪大三郎大澤真幸 サンガ新書)
 大澤真幸宗教学者橋爪大三郎に対談形式で話を聞いていく。けっこう難しくてあまり覚えていないが、仏教についてここまで網羅的に取り上げ考察した本は初めて読んだ。仏教の持つ多様性には驚くしかない。サンガ新書というシリーズがあることにも驚いた。恐るべし、仏教界。

【第8位】九月、東京の路上で (加藤直樹 ころから)
 関東大震災時の朝鮮人虐殺に関するルポルタージュ。警察により、軍により、自警団により、そしてそれらに挑発された民間人により、無残に多くの朝鮮人が殺されていった。ヘイトスピーチが跋扈する中、改めて知っておきたい日本の歴史だ。一方で朝鮮人を匿った日本人の姿も描かれる。時代に流されないように気を付けなくてはいけない。改めて自戒を促したい。

【第8位】言葉と歩く日記 (多和田葉子 岩波新書
 今年は多和田葉子の作品は本書と「飛魂」「献灯使」の3冊。「献灯使」も面白かったが、年初めに読んだ「言葉と歩く日記」が、多和田葉子らしく日記文学の楽しさを知った。深く尽き詰めないところがイイ。読み流しつつ、楽しむ。

【第9位】資本主義の終焉と歴史の危機 (水野和夫 集英社新書
 今年は水野和夫がブレークした年だった。これまで大澤真幸との対談などで筆者の考えを楽しんでいたが、初めて筆者単独の本を読む。内容的にはこれまでの本で語っていたことと同じながら、新書となってベストセラーになった。もっとも本書を菅原晃がぼろくそに叩いている。経済学と経営学は違うものらしい。でも水野氏の危惧には大いに共感する。

【第10位】想像するちから (松沢哲郎 岩波書店
 今年一番感激した講演会。京都大学霊長類研究所の松沢所長の講演は、チンパンジーの泣き真似もうまく面白かった。そしてその講演内容がほぼ本書に書き込まれている。人間とは何かをチンパンジーとの比較から探っていく。愛情があってこその研究だと改めて感じる。


●都市・建築関係書の部
 都市・建築関係では以下の5冊。それにしても今年も読んでいないな。今年は空き家問題に関する本が面白かった。「近居」の大月生には、年明け早々、講演をお願いしている。
近居(大月敏雄他 学芸出版社)
空き家問題(牧野知弘 祥伝社新書)
インフラの呪縛(山岡淳一郎 ちくま新書)
箱の産業(松村秀一他 彰国社
住まいを再生する平山洋介他 岩波書店