とんま天狗は雲の上

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福島原発の汚染水排出問題について

 4月18日放送のサンデーモーニングで、福島原発の汚染水排出問題について論じるコーナーの冒頭で、トリチウム水の排出について詳しい説明があった。

 要点を書くと、以下のようになる。

①現在タンクに溜まっている汚染水を再度ALPSにより処理する。

②それでもトリチウムだけは取り除けない。

トリチウムは水の分子の中の一つのH(水素)がT(トリチウム)に置き換わったもので、水と同じ性質を持つため、水から分離するのは困難。

④雨水や水道水にも存在しており、半減期は12年。放射線量はごく弱い。

⑤国の排出基準は1リットル当たり6万ベクレル。この1/40の濃度まで薄めて排出する。

⑥これまでも13の国や地域の原子力施設から液体や気体として放出されている。フランスのラ・アーグ再処理施設では年間に液体で1京3700兆ベクレル、気体で78兆ベクレルを放出。

⑦国内の原発からも放出がされている(大飯原発で56兆ベクレル、川内原発で55兆ベクレルなど)。

福島原発では事故前の放出上限22兆ベクレルを下回る量を排出する方針。

⑨少量の排出から始め、環境影響モニタリングを実施し、IAEAもチェックする。

⑩全量放出には20~30年かかる

 これに対して、福島県漁連等が反対する理由として「国や東京電力に対する不信感」を挙げ、①東電は2015年に「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」と表明していた、②最近、福島原発地震計や柏崎刈谷原発の侵入検知設備の故障放置などのずさんな管理体制が明らかになった、ことを紹介した。

 これに対して、コメンテーターの意見は総じて、①漁連等に対する説明が不十分であること、②トリチウム以外の核種の除去が十分なされるか心配であること、の2点を挙げて批判をしていた。

 私はこれまで、汚染水の放出について、ここまで詳しい説明を聞いたことがなかったので、「放射線に汚染された水を放出するのか」と批判的に思っていたが、サンデーモーニングでの説明はしっかりと合理的なものだと感じた。ちなみに、東京海洋大学の勝川准教授による「基礎からわかる『トリチウム排出問題』」もほぼ同じ内容を解説している。勝川氏は結局「ここまできちんと説明をしてこなかったことが問題だ」としている。

 一方、中国や韓国などの批判を見ると、どうも批判の対象はトリチウム水の放出そのものではなく、他の放射性元素も放出される可能性を指摘しているようで、科学的というより、政治的な意味合いが強いように感じる。半減期は約12年なので、もう既に事故当時からは半減しつつあるが、「少しでも長くタンクに留め置いて、放射線量が落ちてから放出しろ」とか、現在貯蔵されている汚染水の放出だけで20~30年かかるが「これからも汚染水は増え続ける」という指摘もあるようだ。それらにも一理あると思うが、土地の不足などを考えれば、ある程度の反論は可能だろう。

 いずれにせよ、これまでこうした議論や説明を聞いてこなかったことに驚いた。正しいことでも説明が不十分であれば理解は得られない。ものごとは真実ではなく、信頼関係で決まっていく。一度失った信頼を取り戻すのは著しく困難だ。その点を理解しない限り、汚染水の排出問題は今後も引き摺っていくのだろう。ちなみに私は、まだ人類は原発を十分に制御し、また廃炉できるだけの科学力を手にしていないと思うので、新設には反対の立場だ。