森永卓郎が亡くなってから、各社から実に多くの本が出版された。その中の一冊。週刊ポストで連載された同名のコラムに、同書に掲載された書評などを集めたもの。もっともコラムの連載開始が2024年11月で、翌年1月には亡くなっているので、コラムの数は17編に過ぎず、書評が25編と、ガン発覚後の死生観に関するコラムが3編。結局、小学館も、森永卓郎が「ザイム真理教」などで大ヒットし、かつ死期が迫っていることがわかった後でこの連載が始まったわけで、「何だかな」という気がしないでもない。タイトルも安直だし。
最初に掲載されているコラムが「石破茂政権で『令和恐慌』が起きる」というタイトルでびっくりした。結局、『令和恐慌』が起きる前に、石破総理自身が辞任を表明し、このコラム時からわずか1年というのに、自民党は再び総裁選を行っている。このコラムでは、高市早苗氏を評価しているのだが、さてどうなるか。経済政策以外も見る必要があるようには思うが。
また、書評は一応、経済書編、ルポタージュ編、歴史秘話編、学問編と分けているが、どれも経済的な視点からの書評になっている。もちろん仕方ないのだが、かなり古い本も多いので、どこまで参考にしたらいいかは少し迷う。それでも岩井克人の「資本主義の中で生きるということ」は面白そうだ。また機会があったら読んでみようかな。
森永卓郎が亡くなった後に出版された本を図書館で軒並み予約を入れた。これから森永卓郎ラッシュが続きそうだ。まあ、読みやすいからいいのだけれど、半年も経つと、時代は動いているなあと思わずにはいられない。
○24年…9月の自民党総裁選の結果を最も喜んだのは財務省だ。総裁選候補者9人のうち8人を増税ありきの「ザイム真理教」に洗脳した財務省にとって、唯一の懸念は洗脳に失敗した高市早苗氏だった。彼女が当選したら財務省はパニックに陥っていたはずだ。(P11)
○いま都会に暮らす人々の地方への移住を妨げているのは、地方には働く場、仕事がないからだ。もしベーシックインカムを導入して1人あたり一律5万円を給付したとすると、4人家族であれば20万円の給付が受けられる。/生活の基盤を作ることができれば、自分が本当にやりたい仕事、楽しいと思える仕事をすることが可能となり、無理して都会に住んでいた人々の地方移住を促進することになる。結果、地方経済の活性化が期待できるのだ。(P58)
○【「資本主義の中で生きるということ」(岩井克人)の書評】著者は、資本主義の本質を「投機によって成立しているシステム」だと喝破する。本来の価値とは無関係に、欲しい人がいれば、無制限に価格は上がっていく。…もちろん、行き過ぎたバブルは、その反動としてパニックを必ず引き起こす。それは、デフレや恐慌につながって、国民生活を破壊していく。著者が主張する資本主義との付き合い方は、適切な金融政策で、インフレでもデフレでもない状態を続けることだが、残念ながら、いまの日銀はそれが分かっていないようだ。(P114)
○【「光と影のTSMC誘致」(深田萌絵)の書評】かつて世界シェア5割を超えた日本の半導体産業が1割未満に没落した原因は、日本の人件費が高かったからではない。台湾が環境対策を怠ることで高い価格競争力を持ったことだと本書は指摘する。…TSMC熊本工場が日本にもたらすものは、日本から水や電力を奪い、環境を破壊することであり、日本には高度人材の雇用も新たな半導体製造の技術も生まれないということが、著者の見立てだ。(P158)
○【「中流危機」(NHKスペシャル取材班)の書評】オランダは、日本以上に労働者保護の強い国だ。リストラや賃下げは、厳しく制約されている。それでも高い生産性を誇るのは、正社員と非正社員の差別が、時給にしろ、社会保険制度にしろ、一切ないからだ。だから企業の都合ではなく、働く人本位の経済社会制度に変えることで、真面目で器用な日本人は、再び世界一の技術水準を取り戻せる気がするのだ。(P171)