とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

ナニワ・モンスター

 結局「ナニワ・モンスター」とは誰のことだったのだろう。浪速府の村雨府知事か、浪速地検特捜部の鎌形副部長か、それとも浪速検疫所紀州出張所の喜国検疫官のことか。いや、モンスターが悪役なら浪速大の本田准教授か。もっともモンスターというのはやや小粒だが。
 第一部「キャメル」、第二部「カマイタチ」、第三部「ドラゴン」の3部構成。それぞれが全く独立した話として展開する。第一部「キャメル」では、新型インフルエンザ「キャメル」に日本上陸と無意味な水際作戦。そして警察庁の回し者である本田准教授と彼女を阻止する村雨知事と喜国検疫官の抵抗を描く。ほとんど第一部の中で話は完結する。
 第二部はいきなり1年ほど前に遡る。東京地検特捜部から浪速地検へ左遷された鎌形副部長が村雨府知事と手を握り、厚生労働省に闇打ちを仕掛ける。第一部のキャメル騒動は第二部の仕返し、逆襲という意味があることを知る。
 そして第三部では村雨府知事の陰に病理医・彦根の存在があることを知る。九州の舎人町、東北の青葉県、そして桜宮市を巡り、村雨と彦根の野望が日本三分割、浪速府の独立にあることを知る。しかしその陰で蠢く斑鳩警視正
 裏に流れるストーリーは広大だ。だが事件はその氷山の一角として現われる。まさに海堂ワールド。桜宮サーガは日本全体へとその世界を広げつつある。モンスター候補として挙げた人物以外に舎人町の真中町長や青葉県の新村知事、浪速大の西郷教授などまたまた新しいキャラクターが登場した。海堂ワールドはいったいどこまで広がるのか。次第に僕の頭では捉えきれなくなってきた。まさに海堂尊こそスカラムーシュではないのか。

ナニワ・モンスター

ナニワ・モンスター

●「本当のことを言っておかんと誤解が生まれる。自分の姿が、本当の自分より大きく見えるのはろくでもないことやで」(P34)
●流行病の死亡者数に「超過死亡」という概念が使われる。「超過死亡者数」とは「その病の流行によって平年より増加したと推定される死者数」のことだ。死亡者数をセンセーショナルの扱いたくない場合に医療行政が使う用語で毎年インフルエンザにより何千人単位で死者が出ているという事実を都合良く隠蔽できる。(P95)
●どの組織にも一定の割合で腐敗や不正はつきものだ。それらは撲滅するのでなく、無毒化し共存させないと、ね。要は比率が問題で、我々のコントロール下にあれば多少の不正には目をつむる。そうした不正を完全に撲滅したら、今度は組織自体が自らの重みに耐えきれず自滅してしまうんだ」(P173)
●司法や官僚の過ちを、新聞、テレビといった大メディアは糾弾しない。彼らは現代日本における真の権力者が誰か、よく熟知している。大メディアは権力批判という牙を抜かれた従順な飼い犬だ。刃向かってこない弱者にだけ、齲歯だらけの歯で一方的に噛みつき、あたかも正義の雄叫びを上げているようなフリをしている。(P268)
●努力を必要とするシステムが一般に広がっていく可能性は低い。世に広がるものは、水が低きに流れるように、自然に広がります」(P325)