とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

コロナ漂流録

 「コロナ黙示録」「コロナ狂騒録」に続くコロナ3部作の完結編となるのか。「事実は小説よりも奇なり」はこれまでの2作品の感想でも書いたことだが、本書においても同様、小説のような事実を小説のように書いてみた。

 本書の中心となる事件は安保首相の暗殺。その後の国葬義や東京五輪汚職なども書きつつ、浪速万博騒動に繋がっていく。小説では、その浪速万博の総合プロデューサーにして、大阪発コロナワクチン騒動の中心人物だった三木正隆(森下竜一を模した人物)が最後に、彦根らの罠に嵌り、海外へ飛び逃げする場面で終わるが、現実には、森下竜一は今も健在だ。大阪万博は海外パビリオンの着工の遅れなどにより、開催が若干危惧される状況になってきたが、まだどうなるかわからない。そしてこれらのプロジェクトに連なって利を漁ろうとする者たちの勢いも未だに衰えない。

 コロナ禍はようやく落ち着きを見せてきた。だが、日本という国は未だに一直線に衰退に向かって突き進んでいるように見える。巻末の文章を読むと、海堂尊も還暦を過ぎ、若者に未来を託す気持ちになりつつあるようだ。いつか、現在の権力者の多くが一斉に「日本」という国を捨て、逃げ出す時が来るだろうか。「日本」から逃げ出せそうにない我々はどうすればいいだろうか。その時、「日本」丸は誰が操縦しているのか。まさにタイトルのとおり、日本は「漂流」するばかりになりはしないか。

 

 

○厚労官僚は医療現場の実態をよく理解せず。「理念」で改革を断行した。…厚労官僚が密かに目指していた真の目的は、大学病院に集中していた医療の権限を分散させることだった。そしてそれは見事に成功を収めた。/かくして大学病院は、新臨床研修制度の導入で致命的な打撃を受け、凋落したのである。(P35)

○今の日本社会の基本構造は、『中抜きシステム』だ。現場で働く者に、労賃が届く前に、多重的に上前をはねる『中抜きハイエナ』が襲いかかる。そんな制度構築の一番の功労者が…竹輪拓三元経産大臣だ。利に聡い彼は五輪の利権を仕切ったが、安保暗殺の数日後に、自分が関わっていた企業の全ての役職を辞任した。その迅速さが、彼がいかに『安保トモ』としての恩恵を受けて公金を食い物にしてきたか…を、雄弁に物語っているんだ」(P111)

○そもそも『奉一教会』の完全除去なんてできっこないんだよね。『奉一教会』は『自保党』にはびこる悪性腫瘍だもの。限局した小病巣なら手術で摘出できるけど、全身に転移していたら全摘出は生命に関わる。だからモルヒネで痛みを散らして延命措置するしかないんだけど、そこに未来はない。国会は『ホスピス棟』じゃないんだから、寿命が尽きた政党はご退場願うのが合理的なんだ。(P202)

○ウイルスは、人類の真の敵ではない。/社会が揺籃するのは、ウイルスがもたらす害悪もあるが、それよりも、それに対応する社会の身の処し方にあったのだ…。そもそも最初の頃、ワクチンを打てばコロナに罹らないと考えられていたのですが、変異株の出現で感染予防効果が少なくなり…結果的に集団免疫が成立しないことが明らかになったのです。…そしてワクチンを打っておけば、重症化が防げることはデータで証明されています。…ところが重症化を防ぐ治療薬も開発されたので、これからはいよいよインフルエンザ化していくものと思われます」(P302)

○コロナは一般的な疾病になり、恐怖心は次第に薄れ、普遍化したシステムに組み込まれていく。…無力感を抱えた市民は無関心になり、権力者はやりたい放題をしている。/たとえば今の政府は、戦争をしたがっているように見える。そして若者はそのことに無関心だ。…ずる賢い連中は、自分たちは決して戦場に出て行かない。…若者は軋轢を恐れず、新しい社会の仕組みを作るため邁進してほしいものだ。(P309)