とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

成長のない社会で、わたしたちはいかに生きていくべきなのか

 経済学者の水野和夫氏に朝日新聞文化部記者の近藤康太郎氏が、「そもそも経済とは何なのか」「資本主義とは?」「おカネとは?」「経済成長とは?」など経済成長に関する直球の質問を繰り出して、水野氏が答えるという形の対談集。近藤氏が素人の質問、というが、実はとんでもなく勉強をしているし、文学や音楽など専門の文化面の教養はもちろん深い。幅広い分野の本を読み込んで「こんなこと書かれてましたけど」とその内容を水野氏にぶつけていく。経済に関する硬派な内容をピンク・フロイドドラえもんなど柔らかい発想を交えて質問をすると、水野氏が山口百恵で返すなど、当意即妙、機知に富んで楽しく読ませていく。
 結論的には、地理的にも人口的にもさらには金融的にもフロンティアがなくなる低金利時代に入り、今後は経済成長は見込めない社会になっていく中で、アベノミクスとか強欲資本主義とかやっても結局社会は疲弊し、毀損していくばかりだと諄々と説いていく。
 でもそれですごく悲観的かといえばそうでもない。最後には、「ゼロ成長社会って・・・人類史上初の試み・・・エキサイティングな努力・・・むしろ新しい歴史へのステップ」と未来志向で捉えていく。「成熟社会はどんな社会か、成熟社会をいかに生きるか」というのは、しばらく前からの社会的テーマの一つではあるが、水野氏もそうした方向性を持つ知識人の一人だった。トリクルダウンなんてまやかしではなく、みんなが幸せになれる経済学をめざして、みんなで明るく考えたい。水野先生ってホントにいいなって思う。三部作、真剣に読んでみようかな。

●つまり聞きたいのは、ピンク・フロイドがマネーはガスだって歌ってるのと同じように、おカネって結局は、国なりなんなり、何かのシステムが未来永劫続いていくっていう信用というか、幻想というか……。/まったく信用経済ですね(P33)
●デフレの意味するところは、つまり、すでにモノは行き渡ってしまってる、どこにも投資先はないって意味ですか?/はい。たとえそれが資本主義のご臨終だとしても、それは資本主義がちゃんと、役割を果たしたってことじゃないですか。みんなをある程度豊かにするって役割を果たした。だから、ゼロ金利はご臨終というより、勲章を渡して引退、ってことだと思うんですよ。(P48)
●ふだんは市場経済と資本主義を同じものとして考えて、あまり意識的に区別していないですよね。でも、・・・市場経済は単に需給をその場で均衡させるという、価値観も何もない、無機質なものでしょう。そして、資本主義は確かに市場経済を前提にしていますが、資本主義っていうのはもうイデオロギーの固まりじゃないかと思うんです。特定の価値観を持っている。そして、その資本主義の価値観も時代によってころころ変わっていく。(P95)
●過剰生産で中国がおかしくなるという意味は、簡単に言っちゃうと、デフレになると?/ま、そういうことですね。結果としてデフレが起きる。日本のデフレどころではないと思いますね。世界中にデフレを引き起こす。・・・/近代システムって、成長システムですから。デフレっていうのは、近代システム=成長システムが成り立たなくなったということなんです。(P142)
●ゼロ成長社会って、別に、清貧の思想とか、国家の品格とかいう話じゃないんだ。近代の、それなりに豊かで成熟した社会を、なんとか平衡状態に保っていこうという、人類史上初の試み。どっちかというとエキサイティングな努力なんですね。・・・成長至上主義の愚者の「不満」社会から、成熟を楽しむ賢者の「満足」社会へ。これってつまり、中世への逆戻りじゃなくて、むしろ新しい歴史へのステップ?/そういうことですね。(P269)