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とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

ポスト西洋世界はどこに向かうのか

 第1章で、「西洋独特の政治秩序」について「その主な特徴は自由民主主義、産業資本主義、世俗ナショナリズムの三つである」(P8)という記述がある。これまで西欧世界は、この三つで構成される民主主義こそ社会をより良いものに導くと信じ、西洋以外の諸国に対して、時に強制し押し付けてきた。しかし改めて世界を見ると、民主主義国家以外の政体の国々は多くあり、それぞれがそれなりに社会秩序を保ち、経済発展を遂げてきている。そうした現実と、そして西洋諸国が経済的・政治的な停滞の状況にあることを踏まえ、今後の世界情勢はどうなるか、そして西洋はどう振舞うべきかを考察するものである。

 本書の特徴の一つは、歴史的な視点から西洋・非西洋の現在の政治経済状況を分析している点にある。西洋は、伝統的な王政や宗教と新興階級の闘争、その多様で脆弱な社会状況の末に、現在の寛容と多元性の政治モデルが生まれたと分析する。一方、非西洋諸国は、中国を代表する共同体主義独裁制、ロシアを代表とする家父長主義独裁制、中東の部族独裁制、アフリカ諸国のワンマン政治、南米の左翼ポピュリズムなど、それぞれの歴史と文化に応じた政治状況にある。またインドや日本などの民主主義諸国も決して一枚岩ではなく、それぞれの地政的な状況に応じ、時に西洋諸国に反発することもよくある。このあたりの分析はなるほどと思わせる。

 筆者のチャールズ・カプチャンはどこかで聞いた名前だなあと思ったら、現オバマ政権の大統領特別補佐官にしてNSC国家安全保障会議)の欧州問題上級部長とある(ちなみに現時点での職名がこのとおりであるかどうかは不明。正直、アメリカの政府機関の人事はわかりにくい)。それで後半の提言の部分は、アメリカ及び西洋諸国の外交と政策はいかにあるべきかという視点で書かれている。すなわち、西洋的な民主主義の押し付けではなく、非西洋のあり方にも寛容で開かれた外交と世界運営をしていくべきということである。しかし世界は西洋がいなくても回っていくのであって、やはり大きなお世話、上から目線という感じが拭いきれない。その点ではやはり本書はアメリカの読者向けに書かれた本である。

 それでも今やアメリカの政府関係者でもこうした視点を持たざるを得ないという点は大いに理解し納得する。では、世界各国の人々の思いを乗せて、世界はどの方向に向かっていくのか。原題の「No One's World」は「誰のものでもない世界」という意味のようだが、邦書のタイトル「ポスト西洋世界はどこに向かうのか」に対しては、その答えはここには書かれていない。たぶん西洋世界の思惑のとおりの方向には進まないだろうなと予感はする。それでも西洋社会の思惑のように進んでほしいという期待は本書に書き込まれている。たぶんそうはならないだろうけど。そしてそれがどんなにひどい世界なのか、それともそうでもないのか。それは誰にもわからない。

 

ポスト西洋世界はどこに向かうのか: 「多様な近代」への大転換

ポスト西洋世界はどこに向かうのか: 「多様な近代」への大転換

 

 

○西洋の勃興は主に二つの変化によってもたらされた。第一に、ヨーロッパの政治制度の弱点が逆に強みになった。すなわち、商人・職人・専門職からなる新興階級・・・の相対的自立性と、政治的・社会的なネットワークによって、きわめて垂直的な権力構造を守ってきた伝統的制度は弱体化させられた。第二に、ブルジョアジーが推進した宗教改革は・・・最終的には宗教上の寛容を促進し、政治の領域から宗教が少しずつ退くという結果に行き着いた。・・・専制君主ブルジョアジーに政治的発言権を与えざるを得なかったことで、政治の多元性が促進されることにもなった。(P60)

○ヨーロッパの政治・宗教の分権的制度と社会経済の絶え間ない変化は、はじめこそ混乱と紛争をもたらしたものの、最終的には大きな強みになった。混乱の中から、ダイナミズムが生まれたのである。対照的にオスマン帝国においては、中央集権制とそれにともなう社会経済の停滞が結局は足かせとなり、ヨーロッパと競うには必要だった社会の活気、経済の活力、政治・宗教の多元性が生まれてこなかったのである。(P72)

○要するに、世界中の国々がかなりバラバラの政治路線を歩んでいるということである。そうした違いが生まれたのは、政治文化、社会経済の発展経路、そして宗教などさまざまな点で大きな相違が存在するからである。自由民主主義を信奉する国々の間でさえ、利害対立と立場・地位をめぐる競争が妨げになり、国際的なコンセンサスの形成は難しくなる。新時代の世界は、ワシントン・コンセンサスにも、北京コンセンサスにも、ブラジリア・コンセンサスにも向かっていない。どのコンセンサスに向かうのでもなく、世界は、グローバルなディセンサス[意見の不一致。コンセンサスの対義語]に向かって進んでいるのである。(P184)

○西洋諸国は、自由民主主義ではない政府のことを正統性がないと決めつけたところで、自分たちの利益を損ねるだけである。新しい次の世界において政治の多様性は不可避だと認識すること、それゆえさまざまな体制の新興国との協力関係を強化することは、西洋的な正当性の観念の普遍性を主張することや、それによってパートナーになり得る相手を遠ざけることよりも、はるかに賢明である。西洋と、勃興する非西洋は、もし新しい次の世界の思想的基礎について合意するつもりがあるなら、新しい包括的な正統性の観念を作り上げなければならない。(P242)