とんま天狗は雲の上

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地域における「サービス業の労働生産性」とは?

 先日、商工会議所の会合に出ていたら、飲食業を営む副会頭が「『(製造業を営む)会頭に、サービス業の労働生産性はどうしたら上げることができるんですかね』と言われてしまった」とボヤいていた。いや実際は、ボヤくというよりも、そんなテーマを発して、みんなに意見を聞くのだが、みんな「確かに難しい問題ですね」と頭をひねっているから、思わず「アホか!」と心の中で呟いた。発言の順番が回ってきたので、「この会合におけるテーマは、労働生産性の問題か、地域の魅力づくりか、どちらですか」と質問をぶつけたが、誰も答えることなく、隣席の人に発言の順番が移っていった。「サービス業の労働生産性」なんて、地域の商工会議所で考えるテーマではないし、それをテーマとして発言すること自体が、会合を結論の見えない、無意味なものにしようとする魂胆だと思ったが、そこまでは言わなかった。

 しかし、「日本におけるサービス業の労働生産性はアメリカに比べて格段に低い」という話は、経済評論家などからよく聞かれる話で、しかもいつまでもクリアな答えが出ない。それはたぶん、これを口にする人間もまた、真面目に「日本におけるサービス業の労働生産性」について議論をし、検討するつもりがないからだろう。

 答えは簡単だ。製造や販売などを極力、合理化すればいい。サービス業の労働生産性を突き詰めた結果が、ファーストフード店だということは自明ではないか。極力限られたメニューで、全国展開し、また販売部門もマニュアル化し、できれば自動化して、雇用者を削れば、それが「サービス業の労働生産性の向上」だ。

 だが、地域の商工会議所に入会している地元の飲食店・個店ではそれができない。できていたら、地域の商工会議所などに入会していない。そもそも地域の飲食店やサービス業は雇用を削ろうとは思っていない。少なくとも第一雇用者である自分たち経営者とその家族の雇用を削減し、給与を削ることは、経営の目的に反している。経営者家族がなるべく多くの収入を得ようと思えば、それはそのまま労働生産性の低下になるのだ。労働生産性とは、労働時間ではなく、人件費の多寡で決まるのだから。

 商工会議所のレベルで言われる「サービス業における労働生産性」とは、結局のところ、どれだけ儲かっているかということでしかない。それを「労働生産性」なんて言葉を使い、人件費を下げようなどと考えると、却ってサービスの低下につながり、売り上げが減少しかねない。製造業であれば、たとえ中小企業であっても、需要がある限りにおいて、自動化・ロボット化を追求することは、雇用を縮減することなく収益性を改善できることもあるが、サービス業においては、少なくとも地域の商工会議所レベルでは「労働生産性」なんて言葉を使うのは、明らかに間違っている。間違った経営に追い込むことになる。素直に「もっと儲けを上げるには、売り上げを上げるには、どうしたらいいか」と聞いた方がいい。「サービス業における労働生産性」は商工会議所においてはNGワードに指定したほうがいい。