とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

サムライブルーの勝利と敗北☆

 W杯ロシア大会では望外な結果を手に入れ、浮かれている日本。その後の森保ジャパンでもここまで4勝1分、無敗の成績で来年初頭のアジア杯に臨もうとしている。大迫をトップに、堂安・南野・中島が並ぶ攻撃的なセットはここまで高い破壊力を発揮してきた。しかし彼らの一人でも故障したら……、相手国に研究され機能しなくなったら……。今後の日本サッカーを作っていく上では、彼らに頼っているだけでは全く底上げにはならない。そして先のキルギス戦では控え組との力の差が歴然と明らかにされた。大迫ら4人が日本人選手の中では抜きんでた力を持っていることはよくわかる。ではその他の選手たちはどうか。一方で、この5試合で4失点。コスタリカパナマ相手には無失点で来たが、ウルグアイベネズエラといった実力のある相手には失点を重ねている。そのことに対する守備的な対応はどうなのか。戦略的方針はどうなっているのか。

 筆者は「砕かれたハリルホジッチ・プラン」ハリルホジッチ前監督が目指し、また技術委員会に対して提示もしていた強化指針・指導指針について明示した。そしてW杯での結果を受けて、全4試合を分析し、日本に欠けていたもの、あそこまでの結果が出た要因などを明確に指摘している。

 世界のサッカーは、ピッチの全ての局面において、数的均衡戦略を元にポジショナル・プレーを展開していく方向に変化している。だが、ロシア大会で急ごしらえの西野ジャパンは、身体的な劣位とアジリティの優位性を生かした局面での数的優位を作るサッカーを展開した。そしてその結果発生する数的劣位なエリアを格段な走力でカバーした。しかし明確な守備戦略を持たなかった日本は、カウンターやセットプレーへはその場しのぎで対応するしかなく、結局それがベルギー戦でのセットプレーでの失点、そして最後のカウンターを浴びる結果となった。日本はW杯ロシア大会では、相手が一人少ない状況で1勝を挙げたのみで、あとは1分2敗だった。その結果をもっと認識した方がいい。

 まさに筆者の言うとおりだ。関塚さんを始めとする技術委員会のメンバーも当然、本書には目を通しているだろう。W杯の結果を受けて、今後の日本代表の強化方針についてどう考えているのか。森保監督を中心に日本代表の強化をいかに進めていくのか。そうした方針や理念などをぜひJFAや技術委員会から聞いてみたい。

 

 

○チームの立ち上げ段階では、それぞれのテクニックやプレーヤー特性を活かしあう香川~乾の関係性だけであったものが、その有効性を周囲が活かしていくことで関係そのものが広がり、香川~乾~長友~柴崎~昌子と、中央~左サイド全体を覆う機能的な関係性に発展した……。西野が言う「組み合わせ」「化学反応」とはこのことで、攻撃面の機能性に偏っている……という嫌いはありましたが……最低限の「基盤」を……手に入れ……本戦に突入することになります。(P26)

○ベルギー代表などは、裏にアタックできる局面でのランニングやパスのベクトルについては、選手個々の自由な判断に委ねられているのではなく、チーム戦術的に定められた局面における「タスク」として規定され、機能していました。これは・・・前監督のハリルホジッチが落とし込むべく腐心していたものでもありました。(P50)

○日本代表は、局面の数合わせに執心しすぎて、エリア戦略が立てづらい……サッカーをやっています。……サッカーは、過小な人数で過大なスペースを奪い合うボールゲームです。広大なスペースをどうコントロールするか、その観点から組織や攻守、攻守の連関が考えられ……ものになりつつあります。そこでは、局面を数で埋めるのではなく、一定の範囲のスペースを最低限の枚数でどう抑えやすくポジショニングするか、どういう範囲でそのポジショニングをグループ化するか、状況変移に応じて……どう動くか、……どのように……配置していくか、という世界になっています。(P72)

○「日本のプレーに僕は驚いた。2点差になっても、彼らの前線は動き続け、僕たちにスペースを与えてくれた。……」/ムニエのコメント通りでした。日本はさらなる攻め、リスクテイクに出たのです。/ナイーブな判断でしたが……「そうするしかない」という事情が日本にはありました。……守備的な選択肢を採り効果的なカウンターを打つ準備を持たない日本は、「受け身になったらやられる」という危機感からも、攻めるしかなかったのです。(P190)

○日本サッカーが数的均衡戦略や、その有力なアウトプットの方法論であるポジショナル・プレーを身につけるには、まず数的同数で効果的にプレーできるように全体を底上げする必要があります。……1対1や数的同数で負けない基礎の力を涵養しつつ……数的均衡戦略に……走力と規律をプラスした日本らしい方法論を生み出すことができれば……今大会以上の安定性と再現性をもって世界と渡り合えるサッカーを実現できるのではないでしょうか。(P216)