「海」は平成18年発行の単行本の文庫本化したもの。表題作の「海」を始め、7作品を収録。うち、「銀色のかぎ針」と「缶入りドロップ」はわずか2〜4ページの小品。一刻の出来事と去来する思いを綴る。ふっと通り過ぎていく一瞬。
その他の5編も、一つのイメージを巡り、さらっと書き上げられた小川洋子ワールド。「鳴鱗琴」「活字管理人」「抜け殻」「題名屋」。現実から少しずれた異質なイメージが提示され、それを核に周りの登場人物や人間世界がゆがんで奇妙な浮遊感、たゆたう世界に読者を誘う。そのいつもの手法はいまだ健在。
しかし正直そろそろ飽きてきたかも。「異質なイメージと歪んだ世界」の描写は、イメージを思いつけばそれだけ、小川洋子の筆力ならばいつまでも、書き続けることができるだろう。しかしそろそろ次のステップに飛び出すチャレンジがあってもいいのではないか。
作品の最後に、(これは文庫版だけか?)「インタビュー」が載せられている。ここで得々と自作を解説する作者は何か間違っているんじゃないかと思った。週1回のラジオ番組は楽しみだが、そこで安住するなと言いたい。これなら川上弘美の方がまだ心地よい。飛び出せ、小川洋子!
- 作者: 小川洋子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2009/03/02
- メディア: 文庫
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●僕たちはいつもその話題を、何かの拍子に皿からこぼれ落ちた一粒のピーナッツのように扱った。拾って、殻をむいて、口に放り込んでしまえば終わり。それで不都合は生じなかった。(P10)
●彼らは、そこにしか居場所がなかった人たち、でもあります。彼らは、自分たちのささやかな世界を守りながら生きている。・・・小さな場所に生きている人を小説の中心にすえると、物語が動き出す感じがします。(P164)