とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

悪魔に魅入られたブラジルの崩壊

 一夜明けてもどうしてブラジルが負けたのか、わからない。信じられない。ブラジル国民全員がいまだにそんな気分だろう。前半は圧倒的にブラジル・ペースだった。ペースというより、圧倒的な実力差を見せられたように思った。まるで大人と高校生のように。
 ところが後半に入りたった一度の不運と小さなミスがブラジルを襲うと、後は魅入られたように崩壊していった。大人に見えたのはまだ青臭い青年で、高校生の方が実はしたたかな勤労青年だったかのように。いったい何があったのか。
 立ち上がりからブラジルの選手たちが異様に興奮していた。気を高ぶらせ集中力を高めてピッチに登場したのだろうが、最初から各地で選手たちが揉み合い、言い合う。このゲームを捌く西村主審に「大丈夫か」と心配を寄せた。
 6分、カカ、ロビーニョダニエウ・アウベスらで中盤のきれいなつなぎを見せると、8分にはカカのスルーパスにミッシェル・バストス、ロビーニョとつないでゴールネットを揺らす。しかしこれはM.バストスのオフサイド。9分にもカカからマイコンのクロスがゴール前に入るが、惜しくもロビーニョに通らない。
 そして10分、フェリペ・メロの出したスルーパスは広い中盤を通ってロビーニョにわたり、簡単に先制点を上げた。ロビーニョを追いかけるロッベンの姿が映ったが、どうしてロッベンなんだ。ビデオで見直すと、ルイス・ファビアーノが下がり、それにハイティンガがついてゴール前に大きなスペースがぽっかりと空いていた。そしてその左右、ファンデルビールがバストスを、オーイエルはカカをケアして左右に引っ張り出されている。見事なまでのスペース支配。見事な攻撃。
 直後の11分、スナイデルからファンボメルのパスをカイトがシュートするがGKジュリオ・セザールが余裕でセーブ。スナイデルが抑え込まれ、オランダはほとんどいい形が作れない。時々ロッベンやカイトにわたるが、強力なブラジルDF陣があっという間に取り囲んで自由にさせない。
 25分、CKからD.アウベスがクロスを上げ、フアンがヘッド。30分、ロングパスがファンペルシーにつながり、ロッベンがシュートを放つが、DFがクリア。31分、ロビーニョがDFの間をドリブルですり抜けると、クロスをルイス・ファビアーノがヒールで流し、カカがきれいなミドルシュートを放つ。オランダのGKステケレンブルフがナイスセーブ。ここから流れが少し変わってきたか。今大会、カカは結局1得点もできなかった。スルーパスは非凡だし、ミドルシュートも秀逸だが、なぜか相手GKのナイスセーブに阻まれ続けた。「カカ、またか」というシーン。
 36分、スナイデルのFKはグラウンダーでGKのもとへ。42分、カカからM.バストスのクロスはD.アウベスが飛び込むがゴールならず。ロスタイム、D.アウベスのパスにマイコンが走り込み強烈なシュート。何もかも突き抜けそうな勢いのあるシュートは惜しくもサイドネットにかかった。
 後半に入ってもブラジルがいい動きを見せる。1分、ロッベンがボレーを見せるが、ブラジルのDF・MFの戻りが早く、あっという間に囲んでボールを絡め取っていく。
 ところが8分、悪魔は意外なところで顔を覗かせた。FKからいったんロッベンに出たボールが戻され、遠い位置からスナイデルがクロス。ゴール前にはFKに備え多くの長身プレーヤーが集まっていたが、この一瞬の間にタイミングを外され集中が切れたか。クロスボールはブラジル選手が集中するゴール前に飛んでいく。GKジュリオセザールがパンチングしようと差し出した先にフェリペ・メロの大きな身体が。ボールはフェリペ・メロの肩口に当たってGKも触ることができず、ゴール内に吸い込まれていった。
 前半38分、オランダの右サイド、ロッベンと再三わたりあうブラジルの左SB、ミッシェル・バストスがイエローカードをもらった。後半に入ってもこの局面での攻防は激しい。厳しいファールに西村主審は2枚目のカードは出さなかったが、後半17分、ブラジルはM.バストスを下げ、ジウベルト・メロを投入した。これもブラジルが反撃を貫徹できなかった要因の一つ。
 16分、D.アウベス。21分、カカとシュートを放つ。そして23分、ロッベンの低いCKをカイトが逸らし、ゴール前で待ち構えるスナイデルがドンピシャ・ヘッド。あっという間の追加点。一歩も動けないブラジル守備陣。凍りついた魔の時間。
 その後、さらに調子づくオランダ。右サイドの攻防。29分、オランダのファールにロッベンが倒れ込み抱え込んだボールを早く取り出そうと、フェリペ・メロロッベンの太股を踏みつける。すぐさま主審が駆け寄り、一発レッドカード。これでブラジルの選手たちの焦りと興奮が頂点に達した。猛攻を仕掛ける。
 36分、CKからルシオがボレー。37分、CKからジウベルト・シルバ。しかし焦れば焦るほど空回りする攻撃。前半のように冷静にボールをコントロールできず、パスミスを繰り返す。39分、スナイデルからカイトがポストとなり、スナイデルがシュート。GKが抑える。直後、カカがドリブル突破からシュートを放つがDFに阻まれる。結局、焦りの中で時間ばかりが過ぎ去り、王国ブラジルが崩壊した。
 前半は圧倒的だった。チーム力に絶対的な差があると感じた。しかし同点、逆転された後のブラジルは脆かった。本来の実力は焦りの中に取り込まれ、冷徹なオランダの前に無力化された。崩壊していった。
 敗れたとは言え、素晴らしいチームだった。ドゥンガ監督はどうするのだろう。ブラジル国民はなんて言うのだろう。次回ブラジル大会。できればこのチーム、この監督でもう一度頂点目指してチャレンジしてくれないものか。ベスト8で消え去るにはあまりに惜しい。実力は悪夢の時間に無化された。ブラジルでなら祝祭は優勝まで続くのではないか。4年後のブラジルを楽しみにしよう。