とんま天狗は雲の上

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沈む日本を愛せますか?

 雑誌「SIGHT」に掲載された内田樹高橋源一郎の対談を再掲したもの。時は民主党政権交代をする前の2009年4月から、鳩山首相が辞任し菅政権初の参議院選で民主党が惨敗した後の2010年8月までに3ヶ月ごとに6回+総括対談1回。後世においても多分日本の政治が揺れ動いたと言われるだろう時期に、国内政治を素材に語るという相当にビビッドな対談。
 もちろん二人とも政治の専門家ではないが、だからこそ日本文化論的な視点や文学的直観から語る言葉はかなり的確に日本国の、日本人の現状を切り取っているように思える。進行役を務める「SIGHT」の編集長、渋谷陽一氏(あの音楽評論家の。まさかこんな雑誌を創刊してたなんて知らなんだ)も一緒になって、時に大きく横道に逸れたり、同じことを繰り返したり。そしてそのうちに次第にドライブがかかってきて、大きな文化論や政治論に発展し、また元に戻ったりする。
 そのうねりが面白いとも言えるし(本人たちは相当に面白がっている)、物足りなくもある。それでも「沈みゆく日本」というのはかなり正しい認識だし、「鳩山―小沢連合は、対米独立の攘夷派だ」というのはまさに卓見。そして、コロキアルな日本語で日本の政治を語り構築するという構想も面白い。
 そう考えると、本書は「日本辺境論」を最近の政治事情に当てはめた対談と言えるかもしれない。こうしたドライブする対談の中で、内田思想が形づくられていくのだろうか。そういう点でも興味深い。

沈む日本を愛せますか?

沈む日本を愛せますか?

●だから、いまはさ、複雑でソリッドな外来の概念や思想をがっちり受け止めて、日本人の琴線に触れるようなコロキアルな形に置き換えられるような、タフな日本語が求められているんじゃないのかな。(P034)
●国としての力が下がっていても、それでも気分よく暮らすことはできる。そのためにはどうしたらいいかっていうと、「冷たい社会」にするわけですよ。円環的な時間をくるくる回る。ユダヤキリスト教的な時間ではなくて、日本人が大好きな円環的時間。目先は変わるけど、何も変わらない。(P092)
●社会構造が固定化しつつあることをみんなうすうす感じてる。/となったらさ、社会的リソースを過剰に所有している人間が、それを「贈与」するしかないじゃない。・・・僕はそれを「交換経済から贈与経済へ」というふうに考えているんだけど、鳩山さんの「友愛」は、そういう地殻変動的な変化のひとつの兆候じゃないかな。(P133)
●実際に経験したことが物語に回収されていく過程で、ある大きなバイアスが働いているんですよ。でもね、それが結局は「事実」になるんだよね。歴史的事実っていうのは、「本当に起こったこと」じゃなくて、「本当は何が起こったのか」について事後的に共犯的に構築された記憶のことなんだから。(P155)
●鳩山―小沢連合っていうのは、いわば対米独立派だからさ。/尊王攘夷なんだよ。勤王か佐幕か、開国か攘夷か(笑い)。で、攘夷派が勝ったんだけども、攘夷派が攘夷派であるって名乗ったとたんにアメリカにつぶされちゃうから。そりゃ、アメリカ従属派は強大だもの。自民党だけじゃなくて、霞が関もメディアも財界も、対米従属の巨大な利権ネットワークを形成している。(P342)