とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

夢と魔法の王国バルセロナ、赤い現実主義者マンチェスター・ユナイテッドを木っ端微塵。マンU夢は一刻、バルサ異次元の世界。

 UEFAチャンピオンズリーグFINAL。FCバルセロナマンチェスター・ユナイテッドの夢の対決。2年前はバルセロナの前に手の出なかったマンUだが、今年は違う。エルナンデスルーニーバレンシア、ビディッチらの若手・中堅をギグスファーディナンドらのベテランが支える計算し尽くされた布陣がバルセロナの夢を挫くのではないかと期待した。今年のマンUはそれほど強く充実していた。
 しかし、夢を挫かれたのは彼らの方だった。バルセロナのサッカーはひとり次元が違う。マンUが現実的にできる手をすべて打ち、すべてを計算し尽くした現実世界のその先、異次元の世界にバルセロナはいた。そう思わずにはいられない、魔法にかけられたような90分。まさに至福の90分だった。
 立ち上がり、マンUは激しくプレスをかけていく。そして中盤を飛ばし、DFラインから長いボールを前線に放り込み、エルナンデスルーニーを走らせる。8分、GKファンデルサールの蹴ったボールにルーニーが走り込み、あわやというところでGKビクトール・バルデスがクリア。10分にもブスケスからメッシのパスをカットしたキャリックギグスに預け、スルーパスエルナンデスが走り込む。ピケとGKバルデスがうまく対応し、シュートを許さない。
 考えてみれば、いつものマンUのプレスだが、最初、そうと気付かなかった。いつもと違うサッカーをしているように感じた。そして事実そうだったのだ。マンUバルセロナの華麗な中盤を意識していつもと違うサッカーをしてきた。もちろんマンUの特徴を生かしたサッカーだが、しかしそれはマンUペースのサッカーではない。バルセロナに合わせたサッカー。そして11分、メッシがボールを持ってビジャにスルーパスを出した瞬間、ゲームはバルセロナのものに変わった。
 16分にはビジャが右に流し、シャビのクロスにペドロが走り込みシュート。18分、メッシがドリブルで3人抜いてペドロにスルーパスを出す。20分、メッシからシャビを経由してビジャがシュート。21分、シャビが右に流しビジャがシュート。GKファンデルサールが好セーブ。22分、イニエスタのドリブルからメッシ。ビディッチが好反応。25分、ビジャからメッシへ。ファーディナンドがクリア。
 いつしかゲームは圧倒的にバルセロナがキープし、華麗なパス回しにマンUの両CBが右往左往している。そして27分、シャビがドリブルから右に絶妙のパス。ビディッチがシャビに引き付けられる隙にペドロがマークを離れ、フリーとなってシュート。何気ないパスだが、シャビのどこにでも出せる、どこにでも行ける動きに、さすがのビディッチもペドロのマークを外さざるを得なかった。
 しかしマンUもすぐに現実に戻る。34分、スローインからのこぼれ球をルーニーが拾ってドリブルを開始すると、左右にギグスエルナンデスが開き、ピケが一瞬ルーニーに引き付けられた隙にパス。ギグスオフサイドポジションだったように思うが、うまくコントロールして戻したボールをルーニーがシュート。とりあえず早い時間に同点に追い付いた。
 しかしこれでマンUのペースになっていかない。ゲームはすぐに夢の世界へ。37分、メッシのキープからシャビがシュート。39分、イニエスタミドルシュート。43分、メッシがドリブルからビジャとのワンツーでゴール前に走り込む。現実は同点のはずだが、バルセロナ・ペースで前半を終わった。
 そして後半、バルセロナがペースを上げてきた。開始早々CBのマスケラーノがドリブルで前進ゴールライン際まで突き進むと、バルセロナが圧倒的に押し込んでいく。7分にはイニエスタがメッシとのワンツーから右に流し、ダニエウ・アウベスがシュート。GKファンデルサールが弾き返すとメッシが芸術的なループシュート。これはファーディナンドが必死のクリア。
 しかしバルセロナの夢は必ずゴールで終える。9分、イニエスタからボールを受けたメッシが少し動かしてシュート。え! 一瞬の隙! いや、隙なんてなかった。魔法のような突然のシュートがファーディナンドファンデルサールの間をカーブを描いて抜けていった。世界中が魔法にかけられた一瞬。
 これで勝ち越すと、完全にバルセロナ・ペースでマンUはただ合わせられている。18分、イニエスタの縦パスにメッシが抜け出しシュート。GKファンデルサールがファインセーブ。20分、シャビが右に流し、ダニエウ・アウベスのクロスにメッシがヒールでシュート。ファビオが何とか反応するが、信じられないという表情。このプレーでファビオはどこかケガをした。21分、シャビがミドルシュート。GK好セーブ。22分、メッシからペドロのポストプレーイニエスタがシュート。GK正面。そして24分、マンUがファビオに代えてナニを投入すると、魔法はナニにかけられた。
 メッシが右サイドでナニを抜いてドリブルで前進。エブラらで何とか止めると、ブスケスがポストに入って後ろに流し、ビジャがループシュート。3点目。ゲームを決めるダメ押しのゴール。メッシを止めたところでマンUのDF陣は心に空白が忍び込んだようだ。一瞬、集中力を切らした隙にビジャが、詰め寄るDFを前にGKの死角からダイレクトでシュートを放つ。きれいな弾道でネットを揺すった。
 もう後がなくなったマンUルーニーを中心に必死で反撃を試みる。26分、ギグスのヒールパスからエブラ、ギグスとつないでルーニーループシュート。しかしゴールのわずか上に外れる。39分、ギグスアーリークロスエルナンデスに飛ぶが、GKがクリア。エルナンデスはゲームを通し、ピケとマスケラーノの前で完全に動きをコントロールされていた。40分、ルーニーからナニがドリブルで中に切れ込みシュート。GKがクリア。最後は、ケイタ、プジョルアフェライを投入したバルセロナが落ち着いてゲームを運び、確実に勝利に導いた。バルセロナ完勝。
 ここまで一方的にバルセロナが勝利するとは思わなかった。あっという間の夢の90分間。夢のチームには現実のチームはどんなにがんばっても追い付けない。そんな思いを感じさせるようなゲームだった。夢と魔法の時間をありがとう。