とんま天狗は雲の上

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超巨大地震に迫る

 東北地方太平洋沖地震の直後、気象庁地震調査委員会から「想定外」という言葉が聞かれた。それがどういう意味だったのか。名大の地震学者・山岡先生の講演で、三陸沖から茨城県沖にかけては7つの領域に分けて長期評価が出されており、これらが連動して地震が起こることは考えられていなかった、という話を聞いた。その前提となっているのがアスペリティモデルだ。
 東大地震研究所の所属する筆者らによる本書も山岡先生の言葉を繰り返すが、「想定外」の意味として、アスペリティモデルへの過信がもたらした可能性を示唆している点が興味深い。
 あとがきで「なぜ予知は現段階では困難だと言い続けてこなかったのだろう」と書いているが、今回の大地震の発生はまさに、我々はまだ全く大地震を予知できるレベルに至っていないことを思い知らされた。しかも、「いつ」だけでなく、「どこで」「どの規模の」についても大きく見直しが必要とされる。東海・東南海・南海の3連動の場合のマグニチュードも従来想定されてきたものから0.5ほど大きくなる可能性があるという。
 だが同時に、予知と防災は別のもので、地震と災害も別のものである。地震発生時に備え、どんな準備をしておくか。また発生時にいかに落ち着いて行動するか。それによって災害の程度は変わってくる。
 地震後、東大地震研究所にも「どうして予知できなかったんだ」と批判の電話が殺到したという。だが必要なのはこうして他人に頼り、批判することではなく、自らの命は自らで守るという意志と行動だろう。
 地震に対する知識は必要だ。だがそれを過信せず自分を守っていきたい。地震学者もまた同様のことを考えていると知って安心した。まだ予知の足元にも及ばないかもしれないが、なおいっそう地道に研究に邁進してほしいと願っている。

超巨大地震に迫る―日本列島で何が起きているのか (NHK出版新書 352)

超巨大地震に迫る―日本列島で何が起きているのか (NHK出版新書 352)

●日本人が地震を正しく恐れられるようになることを切に願う。(P21)
●長期評価の科学的な根拠として2000年前後に華々しく復活したアスペリティモデルが、不思議な現象に対する一応の説明、あるいは言い換えを与えたため、研究者にある種の思考停止を招いた可能性があるだろう。(P134)
●想定規模の足し算がマグニチュード8.3にしかならなかった東北地方太平洋沖地震の経験を踏まえれば、プラス0.5程度は織り込まざるを得ず、そうなると三連動地震の規模は東北地方太平洋沖地震と同じマグニチュード9.0となり、超巨大地震による西日本大震災となってしまうだろう。(P139)