とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

子どもの貧困2

 前作「子どもの貧困」は話題になったが、読まなかった。前作では子どもの貧困の実態が主な内容だったが、本書では施策が中心ということで読んでみることにした。しかし明確な施策提案がされているわけではない。それよりもいかに政策を立案していくかという方法論が述べられていると言っていい。
 第1章で子どもの貧困の実態を簡単に紹介した後、第2章ではその要因について考える。もちろん多数の要因があり、それらが連鎖して貧困を生み出している。そこで次に考えるべきは、どの連鎖を断てばよいかということだ。本書では統計的な手法で最も重要な経路を探る研究を紹介するが、決定的に有意な経路が見つかるわけでもない。要因の完全解明は無理でも「できることをやるしかない」。
 そこで、第3章では「政策を選択する」。そのための政策効果の測定手法を紹介し、効果を収益性で図る手法を紹介する。しかし日本で厳密な施策効果の測定は行なわれていない。アメリカでの社会実験の結果を参考にするしかない。第4章では対象者の選定について、普遍主義と選別主義のメリット・デメリット、そして適切なターゲティングとスティグマとの関係等について説明する。
 これらの子どもの貧困対策における基本的な施策立案の考え方について説明した後で、第5章で現金給付、第6章で現物(サービス)給付について、具体の施策内容と効果や課題・問題点について解説する。現金給付の方が「効果が確実」という説明には少し驚く。日本人はわずかな不正に対してあまりに過敏過ぎて、結果的に施策効果の低い現物給付に傾きがちなようだ。
 なかでも、保育園と定時制高校等を高く評価している点は興味深い。スティグマを引き起こさず、効果が高い。これらをきっかけに親に対するアプローチや就労支援等につなげていくことが望ましい。
 終章「政策目標としての子どもの貧困削減」では、2013年6月の「子どもの貧困対策法」の成立を書き出しに、今後の施策の展望について語るが、まず必要なのは子どもの貧困を測る指標づくりだと言う。指標があって、初めて目標が設定され、施策を講じることができる。そう考えると、日本における子どもの貧困対策はまだまだこれから、スタートラインにさえ立っていないと言える。子どもこそが未来と思えば、日本の未来はこれから作っていかなくてはいけない。まだそんな状況なのだ。

子どもの貧困II――解決策を考える (岩波新書)

子どもの貧困II――解決策を考える (岩波新書)

●たしかなことは、私たちには、貧困の要因の完全解明を待つ余裕はないということである。完全解明が永久にない可能性だってある(むしろ、その可能性が高い)。だとすれば、要因の完全解明がないなかでも、できることをやっていく必要がある。肝心なのは、この「できることをやる」姿勢である。(P71)
●比較的に低コストで高い収益率をあげているプログラムもある。「ビッグブラザー・ビッグシスター」というメンター・プログラムである。これも長い歴史をもつアメリカのプログラムであるが、子どもと一対一の関係をもち「見守る」大人をつくるというだけで、子どもの学力向上に貢献している。(P95)
●現金給付の利点は、まず、何よりも、効果が「確実」である点である。・・・現物給付は「何を給付するか」「どのように給付するか」によって大きく効果が異なる。・・・とくに、人による支援(相談事業、教育支援など)を内容とするものでは、質の問題は深刻である。・・・サービス給付の効果は、多分に「人」によるところがあるのである。・・・全国展開する際には、そのような質の高いスタッフを全国レベルで配置できるかという点も考慮しなければならない。(P136)
保育所は、貧困の最初の砦である。母子世帯など貧困層の子どもの大多数は保育所に通っており、一方で保育所はあからさまな「貧困対策」でもないのでスティグマも発生しない。その意味で保育所は子どもの貧困対策の場として適している。(P163)
定時制高校や通信制教育、そして夜間中学・・・は、子どもの貧困対策のターゲティングの対象とするのに最適である。なぜなら、定時制高校や通信制教育を受ける子どもの層と、貧困の子どもの層は、大きく重なるからである。・・・しかしながら、現状をみると、定時制高校の学校数は大幅に削減されている。・・・しかも、この間に、定時制高校の生徒数は増加しているのである。(P207)