とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

洋子さんの本棚

 小説家の小川洋子とエッセイストの平松洋子。同じ「洋子」という名を持ち、同世代で同じ岡山県出身の二人が本を素材に対談をする。少女時代から大人へ、さらに熟年へ。時代を横目で見ながら、女性の成長と人生を語っていく。各章ごとにそれぞれテーマに応じて選んだ本を紹介しつつ、その本のことを語りつつ、人生を語る。
 全部で5章のテーマは、「少女時代」「少女から大人へ」「旅立ち」「出会い」そして「死」。各対談の後には、本に捉われない雑談が付属する。同年代、同郷ということもあって、本当にリラックスして私生活まで気楽にゆったりと話が進む。中年の女同士の会話ってこんなだろうか。性や死など、けっこう際どい話題でも楽々と話してさらっと次の話題へ移っていく。そんなゆるい会話が楽しい。ただし最後の巻末付録「人生問答」は余分ですね。本編だけで十分楽しい対談集になっています。

洋子さんの本棚

洋子さんの本棚

●平松:言葉というものがどんなに人を救うか、ただ単に救うだけでなくその人を作りもするかいうことを切に感じます。/小川:書くにしても、読むにしても、考えるにしても、人は言葉とかかわっていくことで自分という人間を組み立てていく。それを人生をかけて繰り返していくのでしょう。/平松:人は客観的でないと言葉を残せないし、論理を働かせなければ言葉を重ねていけない。言葉とかかわることによって自己を補強するし、発見もするのだと思います。(P33)
●母にも、自分にも、自分で自分を司ることができないものが体の中にある。そのことの絶対的な意味みたいなものを女はわかっている。それってやっぱり、女の人独特の実感なんでしょうか。性にまつわることって、男の人の感覚とは全然違う。自分の体の中に、もしかしたら神とか仏に通じているかも知れないものが宿っている怖さをどこかで理解していかないと、女って生きていけないところがある。(P67)
●小川:つまり現代人である我々も、生きている人間だけで生きていると息が詰まってしまう。やはり死者も必要で、その死者とどうやって出会えるかというと、文学や行事の中にその回路があったりするわけですね。/平松:どんな時代であれ、人は異界への通路を必要としている。だけど今って死者とのつき合い方みたいなものがすごく難しいのかもしれません。/小川:でしょうね。今はむしろ死に方が難しくなっている時代で、どうやって子どもに迷惑をかけないで死ぬか、という方向に問題がシフトしている、死者とのつきあい方の手前でみんな、右往左往しているという感じです。(P197)