とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

ウニはすごい バッタもすごい

 友人が「今年読んだ理系の本の中で一番面白かった」というので借りて読んでみた。確かにわかりやすい。だが基本、本書は地球上に生息する様々な動物について、網羅的に解説をするもので、とは言っても全部は説明できないので、動物34門のうち、刺胞動物(サンゴなど)、節足動物(昆虫など)、軟体動物(貝、タコ、イカなど)、棘皮動物(ヒトデ、ナマコなど)、脊索動物(何とホヤ、そして脊椎動物など)の5つの代表的な門について解説をしている。ちなみに、これら以外にどんな門があるのか調べてみたが、海綿動物門や環形動物門(ヒルなど)以外は想像もつかない。確かにこの5門で十分な気がする。

 サンゴと褐虫藻との共生、キチン質の外骨格や飛ぶ・跳ねるといった運動能力など昆虫の体の秘密、貝の殻のこと、ヒトデはなぜ星形か、キャッチ結合組織について、そして濾過摂食動物であるホヤと能動的に動いて接触する脊椎動物の違いなど、それぞれの門の特徴をわかりやすく説明してくれる。なるほど。各章末(巻末には楽譜も)についた歌詞もよく特徴を捉えていて、面白い。

 ただ、これを読みながら、なぜ文系の友人がこれを面白いと言ったのかと考えていた。「理系の本」という括りがまず気になる。確かに自然物を対象とした本ということでは理系の本なのだろうが、知識が網羅されているということでは、歴史の教科書と変わらない。そしてそうした部分は必ずしも面白くない。面白いのは、本川氏が少し変わった視点で説明をする部分だ。例えば、体が小さいことの利点、大きいことの利点、星形である理由などは、事実としても結局は仮説にすぎない。

 理系と文系の違いって、興味の対象が、人間の行動か、自然の摂理か、といったところなのだろうが、もう一つ、理系人間と文系人間の違いとして、知識を喜ぶか、知恵を喜ぶか、といったことがあるかもしれない。そして本書も、知識が羅列されている部分よりも、本川氏の知恵が伺える部分が面白い。

 本の内容とは関係のないところで書いてしまったが、やはり本川氏は面白い。でも、「生物多様性」の方がもっと面白かったかなと、少し思った。

 

 

〇たった1・2度で、サンゴと褐虫藻という、この類い希な共生関係が解消されるという事実は、きわめて重要なことをわれわれに教えてくれる。生物と生物の関係も、そして生物と環境の関係も、きわめてデリケートだということである。/ごくわずかな温度上昇で、白化という目に見える変化がすぐに表れるのだから、これは地球温暖化の高感度センサーだと言っていい。・・・このセンサーは世界中の熱帯の海に配置されており、これを活用しない手はない。(P28)

〇昆虫は体の小ささを克服して陸の王者になった。・・・小さいものは数が多くなれる。・・・小さいものは生殖可能になるまで成長するのに時間がかからないから、多様化しやすい・・・つまり小さいと個体数が多いから、変異した個体がどんどん生まれバタバタ死ぬことになり、時には他と違って優れた変異が生じる。・・・というわけで、昆虫がかくも種数も個体数も多い、つまり大成功しているのには、体が小さいことが大いに関係しているのである。(P71)

〇奇数が良い、奇数のうちでも5が良いという仮説は、棘皮動物から滑走路、花へと普遍化でき、これを「滑走路仮説」と私は(勝手に)呼んでいる。/さらに普遍化して言えば、自分が動かず、相手(環境、具体的には水・飛行機・昆虫)が動いてくるものでは、奇数の方が、環境中のより多くのものと付き合えて良い。それに対し、自らが動く場合には、向かっていく方向という特別な軸が存在し、抵抗をすくなくするために体はその方向に長くなる。そして、その軸の両側の環境と均等に付き合わなければまっすぐに進めないため、左右相称で脚(翼)の数などは両側で同じ、つまり偶数になる。(P158)

〇さかんに動く動物と、まったく動かない動物の間で、ちょっとだけ動く生活をしているのが棘皮動物である。ちょっとだけ動ければ、どちらの動物も手に入れることができなかった餌を独占できる。いわば「隙間産業」で身を立てているのが棘皮動物。他と競い合うことなく、平和裏に天国の暮らしを実現してしまったのが彼らであり、それも「小さな骨片がキャッチ結合組織でつづり合わされた」類い希な支持系を開発したおかげだった。(P212)

〇四肢動物は体の大きさを武器にして陸上で戦ってきたと言えるかもしれない。巨大な発酵槽をもてるのも、体が大きいからである。・・・大きいということは、相対的に表面積が小さいから体が乾燥しにくく・・・子を体内で育てることも可能になる。/恒温動物になって体温を一定に保てるのも、体が大きいおかげである。・・・陸で成功した二大動物群の一方である昆虫は小さいサイズで成功し、もう一方の四肢動物は大きいサイズで成功したのだった。(P310)