とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

令和日本の敗戦

 現在の日本は、まるで敗戦に向かってひた走っていた戦争末期のようだと筆者は言う。確かにそうかもしれない。現実を直視せず、やたらと威勢のいい掛け声ばかりを声高に唱える安倍首相。その内実は、粉飾と欺瞞に満ちている。そして、異次元の金融政策や「生産性」至上主義の労働対策などにより、国民は格差と貧困の中で喘いでいる。

 さらに「改憲」すらも、実はまるでやる気もなく、ただ右派勢力をつなぎとめるための方便に過ぎないのではないかと喝破する。付録の識者インタビューで、木村草太が「安倍首相はどのように憲法9条改正を訴えればよかったのだろうか。私が事前に相談されていれば、こう答えた」と話しているのは面白い。その場限りの思い付きで進める改憲活動は矛盾に満ちており、実現に向けた戦略性に欠ける。

 昨年末の「桜を見る会」に始まって、検察庁法改正、アベノマスクなどの稚拙な新型コロナ対策、そして河井夫婦の逮捕と、この半年間の出来事を追うだけでも、よくこんな状況で政権を執り続けていられるなと思うが、最近になってようやく次期首相の名前がマスコミなどで噂されるようになってきた。いよいよ交代の時期が近付いてきただろうか。それにしてもひどい7年間だった。

 そして今、令和の敗戦にあたり、日本はどうすれば再生できるだろうか。昭和の敗戦では、天皇中心から米国中心に置き換えることによって、人々の心性を大きく変えることなく、新たな国づくりが可能となった。今こそ、米国の位置に「日本国民」が座るべきだが、簡単ではないだろう。それともこのままズルズルと国力を落としていくのだろうか。20年後の日本の姿を見てみたい。

 なお付録として、3人の識者、白井聡、井手英策、木村草太へのインタビュー記事が掲載されている。これらも興味深いが、内容はそれぞれの著作で書かれていることと同じだった。

 

 

アベノミクスが描いた…机上のストーリーは内実を伴わず、いまや「異次元」から正常化への軌道さえ暗中にある。…日本経済の実相はつまりこうだ。国内需要に底堅さがなく…実質賃金が上がらないため消費は脆い。アベノミクスという官製景気は一時的に異次元を浮遊しているだけであって、着地点はいまなお見えていない。内需と外需が崩れようとし、金融政策も打ち手が乏しい今、政府は致命的打撃になりうる「消費増税」を断行した。(P098)

○七年余り権力を手中にしてきた為政者は、この間に一体何をしてきたのか。浮かび上がるのは改憲さえも「権力基盤を維持するための方便」だという欺瞞である。/経済を掌握し、右派勢力を「改憲」という言葉で搦めとる。そうして構築してきた「仲間」をひたすらに優遇し、より一層、権力基盤を強固にしていく。この七年間とはそうした営みのなれの果てではないのだろうか。(P144)

○戦史・紛争史研究家の山崎正弘さんは今の政治状況について…「日本軍が負け始めてからの戦争指導と重なって見える。場当たり的な弥縫策で「負けている現実」から多くの人の目を逸らそうとする。…」/歴史的に国家は経済的、政治的に窮地に立つと、国民からの追求の目を避けるために、外敵の存在を強調し、ナショナリズムを刺激し、関心を外へと向けさせてきた。日本の現状はまさに「負けている」に違いない。(P196)

○【白井】「象徴天皇」とは一体何を象徴するのか。それを当時の天皇は強調した。いわく「国民統合の象徴」であると。…なぜこの点を強調しなければならなかったのか。/それはいま「国民の統合」が危機にあるからだろう。…天皇は「国民統合についてどうお考えですか」と国民に問うている。国民の側が…「どうでもいい」と思っているのだとすれば、天皇はもう必要ない。…そうした切羽詰まった問い掛けが発せられたのだと思う。(P228)

○【井手】僕たちの本当の目的は何か。/それは未来の不安から解き放たれたいからだ。…あらゆる人々の幸福を考え、結果的に格差を縮め、しかし誰もがどんな家庭に生まれようと安心して生きられる社会ができてしまえば、誰もがフェアな競争に参加できる。…常に存在する格差に対して、人々が寛容でいられる社会を目指したい。それが本当の意味で社会の「分断」をなくしていく唯一の道だろう。(P247)