とんま天狗は雲の上

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いわゆる従軍慰安婦問題

 一昨日の夜、NHKのニュースを見ていたら、アナウンサーが「いわゆる従軍慰安婦問題」と言った。昨日の朝、ZIPを見ていたら、アナウンサーが「いわゆる従軍慰安婦問題」と言った。耳慣れぬ言い回しで一瞬、えっと思った。

 「いわゆる」という言葉をわざわざ付けるのは、一般的には「従軍慰安婦問題」と言われているが、それでは正確ではないと主張していると思われる。テロップにも「いわゆる従軍慰安婦問題」と記述されていたし、異なる二つの放送局で同じ表現を使っているということは、当然だがキャスターの個人的な考えではなく、放送局としてそういう見解を持っているということだ。

 ではNHK日本テレビは「従軍慰安婦問題」という表現ではどこに誤りがあると考えているのだろうか。従軍慰安婦問題とは言うまでもなく、太平洋戦争中、日本軍の兵士に性的な対応をするために韓国等の女性たちが慰安婦として強制的に連行された事態に対する賠償問題であり、強制連行があったか否かが問題となっている問題である。従軍慰安婦という言葉は当時使われておらず、単に「慰安婦」もしくは「軍用慰安婦」という呼称が使われていたようだ。NHKなどはその点を捉えて「いわゆる」という言葉を被せたのだろうか。それとも軍用慰安婦など日本には存在していなかったと言いたいのだろうか。

 どうしてNHKらがこうした表現をしたのかを調べてみると、どうやら24日の閣議後の岸田外相の記者会見で28日に向けて調整をしている日韓外相会談について「日韓関係やいわゆる従軍慰安婦問題で知恵を絞り、全力で取り組み・・・」と話したことをそのまま持ってきたということのようだ。だが、岸田外相は日韓関係と並べて「いわゆる従軍慰安婦問題」と言ったのであり、今朝の新聞では1億円基金の記事が出ていたが、岸田外相従軍慰安婦問題における様々な論争を対象とするのではなく、これらの問題をいかに解決するかという点に絞ってこの問題を捉えており、そういう意味で「いわゆる従軍慰安婦問題」という表現になったものと思われる。もちろん岸田外相自身が「従軍慰安婦に強制性はない。大した問題ではない」と考えている可能性はあるが、「従軍慰安婦問題という表現は正しくない」と考えての表現とは思われない。ニュースでは同じ閣議後の記者会見で菅官房長官従軍慰安婦問題という表現を使っており、政府見解ということでもないようだ。

 しかしNHKなどが岸田外相の言葉を切り取って「いわゆる従軍慰安婦問題」と表現をすると途端に別の意味を帯びてくる。そこには「従軍慰安婦問題など存在しないのだ」という主張やそういう方向に向けてイメージ操作をしたい意向が見え隠れするように感じる。そしてNHKらはそれを承知の上であえて「いわゆる従軍慰安婦問題」という表現を使用したと思われる。もちろん証拠はどこにもないが、岸田外相の表現にかこつけてそこに自分たちの思いを乗せたという感じがする。

 そしてそうした表現をNHKが行ったことに大いに違和感を持った。いや、最近のNHKなら「やはり」と言うべきか。中立性を装った偏向性とも言うべき表現。もっとも報道はそもそも何らかの偏向を抱えている。耳慣れない表現が気になったというだけのことかもしれない。考え過ぎかな。それでもやはり個人的にはNHKのニュースはあまり見たくないという思いが強くなった。新しい表現の使用にはもっと慎重になってほしい。NHKに対しては特にそう思う。