とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

サッカーは監督で決まる

 「だれでもわかる居酒屋サッカー論」以来、清水英斗に注目をしている。というほどでもないが、彼の新刊本が出たというので購入してしまった。いつもの戦術論ではなく監督論。でも、やはりわかりやすい。「モウリーニョの刺激力」とか「ファーガソンの厳格力」とか、言い古された評価かもしれないが、清水の手にかかると、それが豊富なエピソードとともにわかりやすく提示される。上から目線ではなく読者フレンドリーな感じが伝わってくる。それでいてけっこう切れ味がある。読みやすい。
 モウリーニョの本質は「正直さ」にあるという指摘は興味深い。なるほど。選手を愛するからこそ、全てを包み隠さず伝える。そしてけっしてぶれない。ファーガソンの厳父性とは全く異なる現代的な監督像だ。
 一方で、「デル・ボスケの共和力」にも目を見張る。「ラ・ロハ スペイン代表の秘密」を読んだ時に、「このおっさん、いったい何やってるんだ」と思ったが、それこそが「共和力」。しかもそれはスペイン左翼の家庭に育ったことに由来するという見立ても面白い。
 他に取り上げられるのは、グアルディオラ、クロップ、レーブ、オシム・・・。中ではクロップが興味深い。「クロップの一貫力」とタイトルが付けられているが、それが適当かどうかは別にして、信念とそれを伝える強い意思は、昨シーズンの不振で監督を辞任することになってもなお、多くのドルトムント・サポーターに支持され続ける所以となっている。リーダー像として学びたいものだ。
 そして最後は、アギーレの評価とハリルホジッチに言及する。現在開催中の東アジア杯では散々な結果となっているが、こうした状況を経てハリルホジッチが日本をどう導いていくのか。日本はそれに応え、付いていくことができるのか、大いに興味深い。が、それはこれからのお楽しみ。その前に、アギーレに対する選手たちの評価が非常に高いのに驚いた。そしてめざすサッカーはそれほど違わないのに、異なる方法で代表を率いようとしているというアギーレとハリルホジッチの比較。
 筆者の見立てでは、代表の世代交代を促すためにはハリルホジッチのやり方のほうが適当と言う。なるほど。問題はそれが3年後に結果となって現れるかどうか。いや、本当は3年後と言わず、7年くらいのスパンで考えたほうがいいのかもしれない。ハリルホジッチが育てる日本代表に大いに期待したい。

モウリーニョというリーダーのやり方はきわめてシンプルだ。正直に、率直に、明確に。ウソをつかず、直接対話を重視する。それだけだ。・・・「選手が私に忠誠を誓うように、私も彼らに忠誠を誓うんだ。関係性を築くには、正直に向き合うしかない。(P22)
●ブラジルワールドカップ直前、スペインメディアのインタビューに答えた内容には、デル・ボスケの指揮官としての矜持が表れている。「ドレッシングルームを健全に保つことは、戦術を100時間練り上げるよりも価値がある。メンバーが幸福であることは、どんなビジネスにおいても良いものだ」(P73)
●シンプルな哲学ほど、選手に浸透しやすい。グアルディオラのボールプレー。シメオネのハードワーク。全員の前でしゃべるときは、同じことを毎日、毎日、ひたすらいって聞かせる。他のことは反論してもかまわないが、これだけは一切ゆずる気はない。それでこそ、チームは迷わない。/もしも、それ以外に細かく伝えたいこと、あるいは修正すべきことが発生したら、選手ひとりひとりと個別に向き合い、たっぷりと時間をかけて、双方で話し合う。・・・一流のリーダーは、コミュニケーションの手段を使い分けている。(P121)
●称賛も、後悔も、すべて水に流し、前へ進もう。”引き戻されること”が、決してないように。・・・彼を未来へ突き動かすのは、詰まるところ、サッカーに対する情熱に他ならない。「サッカーの生命力が魅力的なんだ。自分のチームに、それを伝えたいんだよ。(P141)