とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

サッカー批評48

 「勝因と敗因と未来」。W杯南アフリカ大会でのベスト16という結果を検証し、未来へ繋げるため、何をしなければいけないのか。風間八宏稲本潤一、前大分トリニータ監督・ポポビッチへのインタビュー。高地馴化を指導した杉田准教授へのインタビュー。イタリア在住サッカージャーナリストに聞くザッケローニの人物像。メディア関係者へのアンケートやメディア批評など、現時点でできる検証を多方面から行っている。
 しかし、大半の原稿締め切り時にはザッケローニ新監督がまだ決まっていなかったため、今ひとつ将来への展望と鋭さに欠ける内容になっている。
 いっそのこと、東京ヴェルディの破綻や大阪の2つの新スタジアム構想などの話題の方が興味深い。
 中でも、「Harad After Hard」の「1993年U-17世界選手権メンバーの軌跡を追う」シリーズでは、橋本淳、石本慎、藤田聡の3人を追いかけ、Jリーグから遠ざかって今の生活を送る人生とその選択をした背景や考え方を突き詰めており、面白い。既存の組織の中で働こうとする原型タイプと、自分で理想の組織を立ち上げようとする理想タイプ。中田英寿の「TAKE ACTION」プロジェクトを絡めて、4人の人生を分類する。中田も理想タイプゆえの挫折の途上にある。どちらかだけでもダメで、両者はミックスし協力し合うことで組織はうまくまわっていくのではないかと思いを馳せる。そんな見方が面白い。
 全体的には少し物足りない。それは新監督がなかなか決まらなかったことが原因としてあるが、それならいっそのこと、日本サッカーから離れた特集をすれば面白かったかもしれない。
 先日読んだ「欧州サッカー批評」の方が面白かった。

サッカー批評(48) (双葉社スーパームック)

サッカー批評(48) (双葉社スーパームック)

●スポーツのメディアで最終的な目標というのは、例えばサッカーのメディアは、サッカーの面白さを伝えるってことだと思うし、サッカーのファンを増やすってことだと思う。それで、その最終的な目標に向けていろんな方法論があるんですよ。批評するというのもあるし、初歩的な部分を伝えるというのもあるし、・・・(P047)
●94年米国W杯でアルゼンチンは、ベスト16で敗退した。早速同協会はリーベルプレートボカ・ジュニアーズに育成プランの提出を求める。ところがそこで協会関係者は、ふとあることに気がつく。「最近アルヘンティノス・ジュニオールズから随分良い選手が出てきているな」そこでアルヘンティノスの育成コーチにもプレゼンをさせたところ、それが採用になる。彼は当時タクシードライバーをしていた。だがこれを機にアルゼンチンのユース代表を経て、フル代表の監督にも抜擢される。ペケルマンのおとぎ話だ。(P057)
●「感謝する」とは、自分の力では叶わないものを叶えてもらった時に、こころに湧いてくるものなのだろう。きっと、「感謝」という言葉の同義語は、「祈る」という言葉なのかもしれない。・・・物事を「受け容れること」と同時に、自分ではどうしようもない「流れ」があったなら、その時には先が見えず不安になるかもしれないが、ぼくの今までやってきた努力を信じて流れに乗ってみる勇気というのも大事なのだと、「出産」を通してぼくは思い知らされた。(P116)