とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

欧州サッカー批評 3

 第3号の特集は「攻撃進化論−アタッキングフットボールの最先端」。南アフリカW杯でのスペインの優勝。バルセロナの活躍以来、バルセロナ風にパスを回して攻めるサッカーが注目を集めている。今号では、解説者の幸谷秀巳氏やバルセロナで監督・選手としても活躍したアントニオ・デ・ラ・クルス氏にバルセロナ・サッカーの強さの秘密を聞く企画もあるが、それ以外にもサッカー批評らしく、ACミランアッレグリ監督やバリのヴェントゥーラ監督、シエナのコンテ監督などのセリエAで攻撃的なサッカーを見せるチーム。ブンデスリーガからはドルトムントのクロップ監督、マインツのトゥヘル監督、ハノーファーのスロムカ監督。さらにリーガエスパニョーラからビジャレアルガリード監督とバレンシアのエメリ監督。そしてプレミアリーグからはブラックプールのホロウェイ監督とボルトンのコイル監督と各リーグで旋風を巻き起こしている攻撃サッカーの旗手たちを取材している。
 観ていないチームもあるので正確なところはわからないが、こうした新しい潮流を読むのは楽しいし、ぜひそのサッカーを観てみたいという気にさせる。興味深いのはドルトムントの香川を取り上げトップ下の概念が変化していると指摘する木崎伸也氏の記事。
 サッカー論以外で興味深いのは、世界最古のクラブチーム、イングランドシェフィールドFCの今を伝える記事とイングランドW杯招致惨敗から見えてきたFIFAの真実。噂どおりW杯開催国レースの内実は汚いものであった。そして「欧州サッカー中堅国の現在地」では、キプロスモンテネグロを取り上げる。ギリシャとトルコに挟まれた分裂国家キプロス。ユーゴリーグ再融合への気配すら窺えるモンテネグロの現状。
 毎度ながら世界は広い。欧州だけでも十分広い。アフリカや南アメリカなどの話題も少しでいいから取り上げてもらえるともっと面白いだろうなあと思う。次号はいつ?次号に期待。

欧州サッカー批評(3) (双葉社スーパームック)

欧州サッカー批評(3) (双葉社スーパームック)

●データアナリストの庄司悟は・・・ドルトムントを分析し、あることを発見した。それは「トップ下の役割が変わってきた」ということだ。・・・ドルトムントのトップ下を務める香川真司は、ゲームメーカータイプではない。相手の守備陣の隙間に入り込んでパスを受け、相手を混乱させてそこからチャンスを広げる。パスを出す能力よりも、レシーブする能力が大きな武器だ。(P030)
●「パス&ゴー」だけですんだ時代は終わり、それに加えて「レシーブ&スイッチ」も求められる時代になった。今後、香川型(=エジル型)のトップ下が、他チームでも増えていくのではないだろうか。(P031)
●Q.ボールを奪われた瞬間の守備がとても速いのもバルセロナの特徴ですが、あのプレッシングはどうして可能なのでしょうか。/A.動かない選手がいるからです。・・・例えば、シャビがボールを持っているとき、前方のビジャやペドロやイエニスタは動いていますが、シャビの近くにいるブスケスは全然動かない。・・・この場合のブスケスのような動かない選手が、ボールを奪われたときにプレッシングをかけていくんです。(P053)
●得票数はわずか2票。このうち1票はイングランドのトンプソン理事の票だから、他国からの支持はたったの1票。惨敗と呼ぶのも穏やかに感じるほどの屈辱的な敗戦。FIFA理事の極端に冷徹な態度は、手間も暇も金もかけて作った評価表を自ら否定し、プレゼンテーションなどは全く意味がないといっているに等しいものだった。・・・しかしこのイングランドの負けではっきりしたのは、評価表とプレゼンテーションは、W杯開催国の決定に何の影響も与えない、ということ。結局は実弾も飛び交うと黒い噂もつきまとう、FIFA理事の抱き込み工作が重要ということがはっきりした。(P086)
●ドイツW杯で日本と対戦したクロアチアの代表監督(クラトコ・クラニチャル)は今、モンテネグロの二代目の代表監督となり、結果を出し続けている。近年はチーロ・ブラジェビッチがボスニア代表監督に就いたり、スロベニア人のカタネッチがマケドニアの代表監督になったり、あるいはクラブチームでもクロアチア代表だったプロシネチキセルビアレッドスターの指揮官に就任したりと、旧ユーゴの異民族間のクロスオーバー現象が起こっている。これもまた時代の趨勢である。オシムが提唱する旧ユーゴスラビアリーグの復活の兆しであろうか。(P101)