とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

エネルギー論争の盲点

 「Chikirinの日記:『自然エネルギーか原発か』という議論の不毛」で紹介されていたので、さっそく読んでみた。なるほどナットク。
 「原発か、再生可能エネルギーか」という極端な二者選択の議論自体がおかしい。電力はエネルギーを運ぶ媒体である「二次エネルギー」に過ぎず、電力自体はエネルギー全体の25%程度にしか過ぎない。エネルギー総体を見た議論をすべきである。という非常に真っ当な見識から、現在の極端に走りがちな日本のエネルギー論争に対して異議を申し立てる。
 「真っ当な見識」と言えば、「エネルギー戦略は一長一短ある各エネルギー源をいかにうまくポートフォリオを組んで、リスクとコストを最小化し、運用していくかだ」という主張も全くそのとおりである。
 興味深いのは、「第1章 エネルギー問題がなぜ重要なのか」で、人類とエネルギーの関係を明らかにしている点である。人類の発展はまさにエネルギーの発見と歩調を共にしてきた。現在の高度に発達した文明は、石油の発見と利用に完全にリンクしている。現在主張されているような再生可能エネルギーだけでは、現在の文明と人口は全く保つことができない。だから原発の危険性が明らかになった今となっても、ベースとすべきは石油であり、それに代わる天然ガスを中心にエネルギー戦略を考えざるを得ない。
 石油や天然ガスは遠い将来的には枯渇する可能性はあるわけだが、そうなった時の人類は、今の文明を維持できず、絶滅するか、大きく人口を減らすしかないと未来を語る。まさに冷静で正しい見識。
 その上で重要な事実を指摘する。日本の電力業界は自らの既得権益を守るため、天然ガスパイプライン建設を妨害し、情報操作を繰り返してきた。その間に世界のエネルギーの主流は天然ガスに移行している。発電方法で石油火力発電はほとんど使用されなくなったというのは知らなかった。少しびっくり。いずれにせよ、天然ガスこそが今後のエネルギー政策の主役であり、日本はその調達のための国際戦略と効率的な利用促進を推進していく必要があると主張する。
 この文脈の延長線上では、食料も含めて国内自給に偏重し、過大評価することの無意味さを論じている点も興味深い。長く石油業界で食べてきた筆者からすれば、ない物ねだりするよりも国際的なリスク分散と友好関係の維持こそが自閉的な自給率信奉よりもはるかに意味がある。
 再生可能エネルギーについての評価は高くない。技術楽観論を政策のベースに据えてはならないことをヒトラーのエネルギー戦略の失敗を例に挙げて説明する。だが、一方的に切り捨てるだけではない。リスク分散の一つとしてうまく利用することを提唱してもいる。再生可能エネルギーだけで全てが回るかのような非現実的な期待に警鐘を鳴らしているのだ。
 ではどうするか。結局、先に書いたとおり、うまくポートフォリオを組んで、うまく運用する、ということだ。その場合に中心に据えるべきなのは、原子力でも太陽光発電でもなく、天然ガスである。それが筆者の主張である。たぶん正しいのだと思う。日本はこの正しい選択を取ることができるのだろうか。ヒステリックなマスコミ報道が心配である。

エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う (NHK出版新書 356)

エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う (NHK出版新書 356)

●エネルギー源の価値を決定する全ての要素の中で、最も本質的で圧倒的に最重要な要素は、・・・エネルギーの産出/投入比率である。・・・この産出/投入比率は、・・・化石燃料、特に石油・天然ガスの数値が圧倒的に高く、次に石炭、原子力と続き、再生可能エネルギーは石油・天然ガスの5分の1〜10分の1程度でしかない(P72)
●高コストの再生可能エネルギーを政策として強制的に導入させられたドイツの電力業界は、電力生産コストの上昇を抑えるために、最も安価だが環境負荷が一番高い石灰を大量に使用しているのである。(P128)
太陽光発電の場合は、建物の屋根に分散して設置すれば、大規模自然破壊の心配は全くない・・・だから、家庭やビル・工場の屋根や都会の空き地に太陽光パネルを設置させる促進政策は大いにやるべきである。・・・しかし、それを救世主として期待し、ほかの現実的対応や「不都合な真実」が見過ごされることがあってはならない。(P136)
●将来のエネルギー選択は、それぞれ一長一短のある各エネルギー源をいかに上手に組み合わせて、経済性・安定性の維持と環境負荷軽減と放射能汚染リスクの最小化を図るか、それを考えていくしかない。同時に、省エネルギーをエネルギー選択と巧妙に有機的に組み合わせて、最大限行うことが現実的だ。/究極的には、筆者の個人的見解では、世界人口を数百年かけて大きく減少させる以外に、長期的に人類の絶滅、あるいは現代文明の崩壊を避ける方法はないと考えている。(P143)
●エネルギーの安全保障には、地理的な分散化(国際的には輸入先を分散すること、国内的には中央集権型から地域単位へのシフト)と、エネルギー源の分散化、最適化という、二重のリスクヘッジがポイントになる。(P206)