とんま天狗は雲の上

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成熟社会の経済学

 非常にわかりやすく現在の日本の経済状況を説明し、対策を提案している。筆者は菅内閣当時、菅首相の経済ブレーンとして増税と環境などの新分野への公共投資を提案したことは記憶に新しい。今、ネットで検索すると批判的なブログが連なっているが、本書を読む限り、確かに現在の成熟社会型の不況を脱する方策は、筆者の提案する方法しかないように思える。
 ただし、政治的には困難なことも筆者自身が理解している。「生活の質を向上させる分野」といっても具体的に何をすればいいかわからないし、増税をしても現政府が雇用の創出や生活の質向上につながる支出を行うかどうか信用できない。下に引用する橋本龍太郎政権下の消費税増税時の公共事業削減がその最悪な事例の一つだ。
 それにしても、バブル崩壊とその後の長期不況が、同じお金への欲望によりもたらされたという説明は面白い。そしてその背景に成熟社会がある。その結果の格差拡大だ。これまで消費税増税には懐疑的だったが、本書を読んで、やってみる価値はあるのではないかと思った。
 とにかくわかりやすい。わかりやす過ぎるほどわかりやすい。誰か本書に対してわかりやすい反論や対案を示してくれないか。それまでは小野氏の提案を信じたい気分になっている。

成熟社会の経済学――長期不況をどう克服するか (岩波新書)

成熟社会の経済学――長期不況をどう克服するか (岩波新書)

●ここ数十年の日本経済における大きな出来事を振り返ると、1980年代のバブル景気と90年代初頭のバブル崩壊後に起こった長期不況が思い浮かべます。この二つは好況と不況を表しているので、正反対のように見えます。しかし、お金への欲望に注目すると、いずれもお金への欲望が生み出す現象で、根は同じであることがわかります。・・・欲望が土地や株式に向かえばバブルが起こり、お金そのものに向かえばデフレと不況が起こるのです。(P14)
増税が景気を冷やす例として、橋本龍太郎政権下の1997年に行われた消費税増税を取り上げる人がいます。しかし、その場合の景気悪化は増税そのものが原因ではなく、公共事業を減らして建設労働者を大量に解雇したからです。政府が増税すると、無駄遣いをやめろという批判がくるので、公共事業を削減する。これが国民経済計算上でもGDPを引き下げ、実体面でも雇用を減らして、景気を悪化させたのです。(P77)
●公務員を国民のはけ口として利用し、公務員批判や財政の無駄の排除を旗印に掲げる政治家は、中央にも地方自治体にも数多く存在します。しかし、・・・自分の手足として働く公務員をえkなす政治家のもとでは、有能な公務員もがんばる気力が失せるでしょう。どこの世界に我が社の社員は無能でだめだと顧客に訴えて、人気を取る経営者がいるでしょうか。こんな人がいたら、経営者失格です。(P101)
国債発行とは、増税という政治的には難しいことを先延ばしするだけのために、すでに発行されている国債を信用不安に陥れる危険性のある政策です。だからこそ、巨額の国債が積み上がって信用維持が懸念され始めているいまは、むしろ増税の方がいいのです。そもそも物が売れず労働力も余った状況を放置していれば、人びとはデフレと雇用不安に悩まされ、国債や貨幣などの金融資産を増やしても、物やサービスの購入には向かいません。それなら、国債も・・・現在の信用を維持することに重点を置くべきです。その上で、税金で集めた資金をもとに財政支出によって需要を作り、雇用を増やしてデフレと雇用不安を取り除けば、消費を刺激することができます。(P121)
●結局、日本経済が不況の苦しみから逃れるには、国内の消費者に夢や楽しみを与え快適な生活をもたらす商品やサービスを開発して、内需を刺激するしかありません。・・・しかし、内需よりも外需を狙って外貨を稼ぐことしか考えない産業が国内にとどまれば、経常黒字圧力が減りませんから円高も止まらず、新分野で内需を生み出す企業が育っていきません。このような産業に日本にいてもらうためにお金を出すくらいなら、国内の日本の生活の質を向上させる分野や環境や省エネ新エネにお金を出した方がいいのです。(P194)