とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

輝天炎上

 桜宮市の医療を東城病院と並んで引き受けてきた碧翠院桜宮病院の崩壊を描いた「螺鈿迷宮」の続編、というノリで読み始めた。「螺鈿迷宮」の最後では、病院炎上とともに焼死したとみられた桜宮小百合が実は炎を逃れて脱出し、北へ向かったことが示唆されている。そして「極北クレーマー」に登場する仮面を被った医療ジャーナリスト、西園寺さやかが実は桜宮小百合の仮の姿だということが匂わされる。
 だが、他作品とのつながりはこれに留まらない。「イノセントゲリラの祝祭」の彦根教授と桧山教授、「ナニワモンスター」の本田准教授など他作品に登場した人物が集大成のように登場してくる。
 それにしても、桜宮すみれが実は小百合同様に生きており、小百合の陰謀を阻止すべく動くという設定には思わず反則じゃないのと言いたくなる。でもそれがさらに作品群に面白さと複雑さを加えている。そしてさらには、「ナイチンゲールの沈黙」の城崎が実は桜宮家の長男であること、「ジーンワルツ」の三枝院長が桜宮家と姻戚関係にあることなど桜宮サーガはますますその根と枝を広げていく。
 さすがにもう僕の頭には収まりきらない。前編ではどういう話になっていたっけと本書と並行して「螺鈿迷宮」をもう一度読み始めた。それにしても海堂作品ってやっぱり面白いなあ。中山七里の及ぶところでは全くない。

輝天炎上

輝天炎上

●僕は過去の悪行を暴くつもりはなく、Aiを社会導入すれば、未来の失態を防ぐことができる、と主張しているだけだ。・・・「構成員が自分の利益しか考えないような組織なら、百八十度違う結果になりませんか」・・・「もちろんその通りだし、世界は概ねそんな風になっているらしい。僕にとってサイアクの事態が今の、真実がふたつあるという状況だ。・・・「どうして彦根先生は、そんな風に達観していられるんですか?」・・・「それが現実だからさ。現実に歯向かって物事を変えようとするよりも、現実に即して動いた方がずっと効率がいい。(P132)
●美智は僕の手の中で命を失った。だけどそのぬくもりは今も手の中に残っている。同じように、今も美智はここにいて、このカルテの中で息づいている。/罵倒の言葉が羅列されている中に一粒、真珠が交じっていた。/それは僕に向けられた言葉だった。/―天馬は必ず、立派なお医者さまになろうもん。/医療は、こんなことまでできるのか。(P206)
●読み人のいない文章は、見る人のいない鏡のようなものだ。/鏡は、硝子板の裏に銅メッキした物体にすぎないけれど、その前に見る人が立った途端、その表面に森羅万象を映し出す無限の世界へと変貌するという、稀有な家具だ。/用途を果たす時は実体は消滅し、映し出される虚像世界だけが存在意義になるという意味では、この”手紙もどき”は鏡のアナロジーになるのかもしれない。薄手の紙に記されたインクのシミという実体ではなく、そこに綴られた心情こそが本質的な存在なのだから。(P264)