とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

ハンコについて

 先月、政府から「契約書にハンコ不要」の見解が示され、特に印鑑業界を中心にざわついた。「ハンコ文化の否定だ」という意見もあったが、政府見解は「契約書の真正の証明は印鑑でなくてもいい」というもので、ハンコを否定したわけでも、真正の証明を不要としたわけでもない。「ハンコは契約の証拠としては便利だけど、ハンコ以外の方法でもいい」という意味だから、それほど騒ぐことでもない。でも実際は、今でも押印を求められることは多い。

 今、私は何個のハンコを持っているだろうか。実印。銀行印。仕事で使用し、職場に置いているもの。明確に私だけが使用しているのは以上の3本だ。娘も祖父が作ってくれた実印。銀行印。そして私と同様、職場にも置いてあるはず。妻は実印と銀行印。それから、家族共用の引出しの中に、回覧板や宅配便の受け取りなどに使用しているシャチハタ印と文具店で買ったと思われる普通の印鑑の2本がある。全部で10本。

 先日、妻が入院するにあたり、入院申請書兼誓約書の提出を求められ、患者と保証人2名の印鑑が必要となった。たかが入院申請書に実印や銀行印を押印するのは憚られるが、それらを除くと、わが家にはハンコが2本しかない。それも1本はシャチハタ印。結局、妻のところはシャチハタ印で済ませ、私と娘のハンコは同じものを使用した。実は100円ショップで買った娘の名前のデコ文字のハンコもあったけど、さすがにそれを使うのはやめた。もちろん何も言われなかった。「そもそもハンコっているんですか」と言いたくなったけど、これからお世話になる病院に対して騒ぎを起こすわけにもいかないし、かと言って、新たにハンコを買いに行く気もしない。まあお互い穏当な対応をしたということで。

 ハンコは中国から伝来したものとは言え、日常の文書に押印する習慣は日本独自のもので、日本占領下にあった20世紀初頭に台湾と韓国も印鑑制度を導入したが、韓国はその後廃止され、現在も印鑑登録制度があるのは日本と台湾だけとのこと。とは言っても、欧米にもスタンプならあるじゃないかと思うが、どうも印鑑業界が主張しているのは、印鑑登録制度の存続ということのようだ。印鑑登録制度が今後も必要かどうかという議論になると、よく考えないとわからないが、印鑑登録した印鑑を使用するといっても、クルマを購入するときなど、数年に一度位しかない。今回の政府見解によってこれからはさらに印鑑登録の必要性が減るのだろうか。

 それでも日常的に社内の回覧や稟議に「見たよ」の印として、または「承認」の証としてハンコを押すのは、サインよりも簡単かもしれない。いかめしい印影のハンコよりも、いかにもその人らしいオリジナル・スタンプを押すことが一般的になれば面白い。その方が印鑑業界にとっても需要が伸びるのではないかな。50代のおじさんたちがハンコのオリジナル性を競って、ハンコ屋に殺到する光景もまた楽しいのではないか。