とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

ニホンという病

 これまで養老孟司の本は読んだことがない。と何度も書いてきたが、対談本はいくつか読んでいた。改めてその感想文を読んでみると、意外に「面白い」という感想が多い。「意外に」と書いたのは、本書はそれほど面白いとは思わなかったから。それは対談相手の名越康文が原因なのか、司会を務めた日刊ゲンダイの進行がまずいのか、それとも本書のまとめ方が悪いのか。わからないが、とにかく二人が何を言いたいのか、よくわからない。

 対談本がつまらない、というのはわかっていたことなので、それほどの期待もなかったが、それにしても、話し言葉をそのまま収録したみたいで、話し始めて、途中でその注釈が入り、また本論に戻って、という話し言葉特有の行ったり来たりがそのまま書かれていて、二人の言いたいことがすっきりと頭に入ってこない。たぶん編集が悪いのだろう。もっとも、名越康文の発言も、養老孟司に合わせているだけで「なるほど」と思うことは少ない。それでも、養老孟司の「日本語論」や「脱成長論」は面白い。深堀されることなくさらっと過ぎていっているのが残念だ。

 

 

○【名越】知識の集積を競うことで頭の良し悪しを印象付けるやり方は、AIが社会を動かそうとしている現代において、もうかなり虚しさが漂ってきている気がします。…つまり未来において最も活用できるであろう能力の訓練は、ブラックボックスに入ったままで年月が過ぎ去っていると言って良いのではないかと思います。【養老】日本人は…本質にかかわるところは変えずに、表層的なところだけを変えてきた。和魂洋才が典型だと思うね。(P19)

○【養老】日本語って…雰囲気とか忖度とかよく表現できて、客観性とか記述とか、ドキュメントに向かない。…ところが…英語っていうのは…事実を書くのに向いているんじゃないかと思います。それで哲学も経験主義になるし。…言葉の方が物事を認識する時の強制力となっている。…だから彼らは証言主義をとる。…日本は自由主義…「話せば分かる」というのはそれに近い…事実の違いよりも同意が優先している。日本語はそういう言葉なんです。(P31)

○【養老】実収入は低下する一方です。それを脱成長と言うんじゃないかと思うんです。…環境問題やエネルギー問題その他を日本人がよく考えて、ある意味ではそれが行き渡ったために、実は実質的に脱成長になっちゃった。…だって、実態で考えたら経済が上向くにはエネルギーを必ず消費するわけですから…そんなことは何十年も前から分かっていたこと…ですからね。…日本人って…ひとりでにブレーキをかけていったんじゃないかな。(P63)

○【養老】内発的にやって来ていればどうにも応用が利くし、発展もするんですけどね。外発的だと、外から入ってきたものに惑わされるから…どうにもなんないんですね。…【司会】内発的な考え方が組織の中で封じ込められて組織順応してしまった。それが今の状況をもたらしているんですね。【名越】でも、僕は社会全体を変える必要はなく、自分が変わることが大事だと思いますね。【養老】社会はひとりでに変わりますよ。…個人、個人が変わっていく。その結果、総体として働けば社会が変わるということですね。(P145)

○【養老】田舎というか自然の中で生きる、そういう生き方をしていると…「土に返る」と、素直に感覚でとらえられる。つまり、自分の心が…周りにちらばっていく。…これはネットとかコミュニケーションが急激に進んだ時代のいいところだと思うんですよ。…そうすると自己の死というのは、都会の中の孤独に比べてはるかに楽なものになるんじゃないかという気がするんですけどね。(P187)