人の上に立つ悪人といって思い浮かべるのは、トランプか、プーチンか、ゼレンスキーか。はたまた、石破か、玉木か、立花か。筆者はアメリカで生まれ育ち、現在はイギリスで教鞭を執る社会学者。第1章の「序―権力はなぜ腐敗するのか?」という問いに対して、以下のような4つの仮説を立て、それぞれ検討していく。
○権力に関する4つの仮説…第1の候補は、権力を握ると人は悪質になる…。第2の候補は、権力が腐敗するのではなく、より悪質な人が権力に引きつけられる。…第3の候補は…私たちが不適当な理由から不適当なリーダーに引き寄せられ…彼らに権力を与える傾向にある…。第4の候補は、すべては制度次第、…適切な状況を生み出せば、権力は腐敗せず、浄化する。(P24)
筆者は、これまで権力を握った末に悪事に手を染めた人々にインタビューをし、彼らの行状や気持ちなどを紹介する。具体的な事例が豊富で、面白い。それで、上記の4つの仮説はどれも概ね正しい。権力を握ると人は悪質になるし、そもそも悪質な人間は権力を手にするのが得意だし、引きつけられる。そして、多くの人々は、そうした不適格な指導者に引きつけられ、権力を与えてしまう(これはまるで、昨年の東京都知事選や兵庫県知事選を見るようだ)。
そして、制度を工夫すれば、悪人に権力を与えず、悪質な指導者に権力を行使させないことも可能だと、具体的な方法を提案する。ただ、実際はなかなか難しいのではないか。特に、多くの人が不適切な指導者に引きつけられてしまう状況を正すのは簡単ではなさそうだ。
それでも「権力者はたいてい悪人だ」という意識が広まることはいいことかもしれない。本書では、ローマ時代の独裁官キンキナトゥスを理想的なリーダーとして紹介する。彼は人々に押され独裁官の職に就いたが、職務を終えるや否や、すぐに職を辞した。さらに、ジョージ・ワシントンも紹介されている。ワシントンがいかに優れたリーダーだったのかは詳細に語られてはいないが、アメリカ人にとっては常識なのかもしれない。
日本にも彼らのような指導者が上に立つことはないだろうか。でも今の日本では、キンキナトゥスのようにわずか16日間では今の日本の危機を回避できないだろう。そしてそのうちには悪事に染められていく。やはり「権力は腐敗する。絶対的な権力は絶対的に腐敗する」(ジョン・アクトン)のだ。
○腐敗しやすい人は権力に引きつけられる。彼らは権力を手にするのが得意であることが多い。私たち人間は、石器時代の脳と直結した不合理な理由から、不適格な指導者に引きつけられて従う。劣悪な制度が何もかもをいっそう悪くする。(P224)
○もっと賢く採用すること。ランダムに人を選んで監督させること。もっと人事異動をすること。結果だけでなく意思決定のプロセスも監査すること。これら4つの戦略をすべて実施すれば、もっと優れた人々に権力を握らせるという目標に向かっておおいに前進できる。(P302)
○私たちは見当違いの人々を監視している。…逆に、権力を握っている人が絶えず監視されていると感じるようにするべきなのだ。…アメリカの街中で行われる不法侵入、強盗、窃盗、放火といった財産犯の被害額をすべて足し合わせても170億ドルをわずかに上回るだけであり、ホワイトカラー犯罪の損害はその15~20倍の額に達する。…支配される人ではなく、支配する人のことこそ、私たちは懸念する必要がある。(P349)
○私たちはより賢く採用を行い、籤引き制を使って権力のある人々を出し抜き、監視を改善できる。指導者たちに、自分の責任の重みを思い起こさせることができる。人員を異動させ、権力の濫用を思いとどまらせたり見つけたりすることができる。ランダム化した誠実度検査を使って悪者を捕まえることができる。そして、監視するなら、下層の人々ではなく、真に有害なことをする上層部の人々に的を絞ることができる。(P370)
