とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

ローカリズム宣言

 「TURNS」という雑誌があることすら知らなかったが、そこに連載してきた記事をまとめたもの。でも私の中では、内田樹とUターン・Jターン・Iターンはすぐには結びつかなかった。実際読んでみると、あまり地方移住者には関係ない内容のような気がする。もちろん、「成長から定常へ」とか「グローバル資本主義からの脱出」というのは地方移住希望者の気持ちの底にはあるのだろうが、脱「国家」とか、脱「マスメディア」論までは必要ないし、関心があるとは限らない。「地方移住希望者向け」というより、「地方移住希望者向け雑誌がある」ということにインスパイアされて書いた連載記事という気がする。

 それで、内容の多くはこれまでの内田本の中でも語られてきたことだが、それでもやはり新しい表現、新しい発見があって面白い。例えば「いい人」であることが、相互扶助・相互支援ネットワークに登録されるためには重要な条件だとか、客観的な査定を望む若者が日本の多様性を失わせるといった話は、これまであまりなかった言葉ではないかな。そして確かにそうだと思う。

 何より、今さら能力を向上させることが望めない私にも、「いい人」になることは、これからの努力次第でできるかもしれない。そう、これからはなるべく多くの友人をつくり、なるべくみんなにとっての「いい人」になれるよう努めようと思う。フローよりもストック。これからは「いい人」ストックを多く貯め込んでいこう、と思った。

 

ローカリズム宣言―「成長」から「定常」へ

ローカリズム宣言―「成長」から「定常」へ

 

 

○僕たちの社会は、いままさに「ポスト・グローバル」というかたちで近代以前に向かって退行している。それもこれももう成熟して、経済成長の余地のないところに経済成長をもたらすという不可能な夢を見ているからです。・・・経済成長が止まった社会でなお無理に経済成長を続けようとしている人たちは、それが中世への対抗であるということに気づかないほど狂っているのです。(P32)

○日本は、豊かな山河という世界でも例外的なアドバンテージがあります。多様な植生に恵まれ、さまざまな動物種が繁殖し、きれいな水があふれるように流れ、強い偏西風がよどんだ大気を吹き払ってくれる。・・・経済の話をするとき、エコノミストはみんな「フロー」の話しかしません。日本が有している分厚い「ストック」については語らない。しかし、この豊かな山河という「ストック」はそもそも金をいくら積み上げてもどこからも誰からも買うことができないものなのです。(P40)

ヒトラーのドイツも、ムッソリーニのイタリアも、ペタンのフランスも、どこでも立法府が・・・民主的に議決したことによって成立した政体です。・・・民主制と独裁制は対立概念ではありません。独立性の対立概念は・・・共和制です。共和制とは、一時的な熱狂や人気で、国の根幹にかかわる政策が変更されないように、つまりなかなかものごとが決まらないように設計された政体のことです。(P60)

○この地域共同体では、相互扶助、相互支援のマインドが「受肉」していた。/定常経済が成り立つためには、そういう特別な条件が要るということです。「成長はもういい」という膨満感だけでは経済モデルは回せない。資源がたいせつだという気分だけでは足りない。「どんなことがあっても次世代に残さなければならないもの」をわれわれは先人たちから託されているという使命の自覚が必要になります。(P67)

○まわりから「いい人」だと思われることが相互扶助・相互支援ネットワークに登録されるときにはかなり優先順位の高い条件です。能力があることより、リーダーシップがあることより、資本があることより、「いい人」であることです。能力とかリーダーシップというのは「ひとりでも生きていける」能力です。集団を形成するために必要なのは・・・むしろ「仲間がいないと生きていけない」という弱さだからです。・・・弱さをカミングアウトできるためには「心の広さ」が必要です。(P173)

○過剰なまでに「客観的な査定を望む」点に現代の若者の際立った特徴があります。才能のある若者ほど被査定志向が強い。・・・同質の能力の量的な差だけが際立つような職業に吸い寄せられる。その結果、正確な格付けを求める若者たちは、できるだけ多くの人がしていることを専門領域として選好するようになる。/まさに現代日本社会から活力が失われているのは、そのせいなのです。・・・そうやって精度の高い、客観的格付けを求める人が増えれば増えるほど、その集団からは多様性が失われる。(P257)