とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

フットボール批評 issue24

 今号の特集は「V字回復クラブの強化書」。マリノスグランパス、そしてトリニータの現在の経営陣、強化部、そして選手へのインタビューで構成する。グランパスからは大森SDだけなのは少し寂しいが、それでも具体的な選手個人名が挙げられ、興味深く読んだ。また、ミキッチへのインタビュー、反町監督と岩政との対談、FCマルヤス岡崎への取材、クロアチアボスニアの近況など興味深い。翻訳家・元川悦子がトルコを訪ねて、ギュネシ監督(現ベシクタシュ監督・日韓W杯でのトルコ代表監督)に行くインタビューも面白い。さらに、いよいよW杯に向けて選手選考が発表されたなでしこジャパンから、ベレーザの3選手へのインタビューも掲載されている。これまで本誌が女子サッカーを取り上げることはほとんどなかったのでうれしい。これまで欠かさずアンケートで「女子サッカーを取り上げてほしい」と書き続けてきた効果があったかな。

 加えて、社会保障法学者である山下慎一准教授から、Jリーガーの社会保障について、真面目な論文が寄せられている。サッカーからの引退と老齢期の職業生活からの引退。サッカー選手には二つの引退があるという整理からして論理的だし、さらには大相撲との対比で、Jリーガーがなぜ自営業者として扱われるのかについて疑問を提示している。それも単にJリーガーとしての話ではなく、今後の働き方の変化を踏まえ、労働者中心の日本の社会保障制度そのものへの問題を提起。まさにサッカーから社会制度を論じる。非常に興味深く。まさにフットボール批評ならではの記事だ。

 一方、武田砂鉄氏のコラムはそろそろ勘弁してもらっていいかな。武田氏自体は評価しているが、本誌の中ではどうしようもなく一人でボールを捏ねている感じがする。もう一つ、大橋裕之氏のマンガも面白くない。紙片の無駄のような気がする。

 ということで今号のフットボール批評は全体的に面白かった。サッカー本大賞の発表もされており、改めて受賞本を早く読んでみたいという気になった。

 

フットボール批評issue24

フットボール批評issue24

 

 

○「日本人は『バランス』という言葉が好きだと思う。それはシーソーと一緒で、一度崩さないと『バランス』はとれないけれど、ずっと地面と平行な状態を保っているのを『バランス』だと思っている人が日本にはすごく多い。それは昔、オシムに言われた。/じゃあリスクを冒していないのに、何でリスクマネジメントが必要なんだ、と。『バランス』をとるためにリスクマネジメントという言葉を使うのなら、リスクを冒さなければいけない。(P15)

○大きな手を打ってそれが当たると「すごい采配だ」みたいになるけれど、それはつまり最初が間違っているっていうことを証明しているわけだからね。ちゃんと準備できていなかったでしょ、ちゃんとスカウティングができていなかったんでしょっていうことだ。/替えるということに関しても……リスクだって常にある。いい時にパッと替えてもしかしたらそれが抑止力になってしまうかもしれない。……みんなが全く見えないところで色々準備をしているというところだけは感じてもらいたい(P39)

○大相撲の力士らは厚生年金と健康保険に加入しています。つまり、彼らは公的年金と公的医療保険において労働者と同じ扱いを受けています。なぜサッカー選手と力士らが区別されるのか、納得できる説明は見当たりません。……そもそも労働者と自営業者を区別し、前者を中心に捉える仕組みをとることが妥当なのか、そしてそれが今後も可能なのか……人工知能(AI)の発達や……シェアリング・エコノミーの流れが、これまで「常識」とされてきた働き方を覆しつつあります。もしかすると、労働者と自営業者とかいった区別で社会保障を構築する考え方が、時代にそぐわなくなりつつあるのかもしれません。(P88)

ディナモの取締役会長とサッカー協会副会長を兼任し、同国サッカー界を長年牛耳ってきたマミッチは、モドリッチの移籍金着服を始めとした汚職容疑で昨年6月8日に有罪判決を受け、法の手が及ばない隣国ボスニア・ヘルツェゴビナへと逃亡した。その直後にクロアチア代表とディナモが揃って偉業を果たしたこととの関連性は決して小さくない。(P100)

○日韓大会については「宮城での試合は1-0で厳しかった。……日本はいいチームで、将来的にはもっと強くなると期待していた。今、香川とか国際舞台で活躍する選手は出たけど、そういう選手が40~50人いてもいいはず。……どこか行き詰まっている印象を受ける。……FCソウルで指揮を執ったギュネシ監督はアジアの情勢にも明るい。そういう人物の意見を我々は冷静に受け止める必要がありそうだ。(P113)