とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

資本主義を乗りこえる

 最近、資本主義批判が多くの知識人から聞かれるようになってきた。ピケティの「21世紀の資本」もそうだし、斎藤幸平の「人新世の『資本論』」もそうだ。内山節がこの講演をしたのは2018年だが、それ以前から資本主義が内包する問題は多くの経済学者や哲学者などには認識されていたのだろう。本書でも内山節がわかりやすく、資本主義の問題点を指摘する。資本主義はそもそも貨幣の増殖、資本の拡大を目的とするシステムであり、人間の労働や幸福とは何の関係もない、と。

 そして、資本主義はそもそも自滅する運命にある。ケインズが主張した「国による有効需要の管理」は結局、「資本主義を野放ししては自滅する」という認識から始まっている。また、過度に走り過ぎる資本主義に対しては、規制などの逆ブレーキがかかり、それが却って資本主義を延命させてしまう。こうして今まで続いてきたけど、ソ連崩壊後、投資型資本主義に走った結果、いよいよ今こそ、資本主義から距離を置き、それに抵抗する人たちが現れ始めた。

 人は貨幣のために生きるにあらず。人は人自身のために生きる。その新しい経済のかたちを内山節は「ほどほどの市場経済」と呼ぶ。「市場との結びつきはもつけれど、資本主義の原理にはしたがわない。…貨幣の増殖の最大化を目的としないで、むしろ労働とか経済の価値を貨幣で計れないものに置いていこうという動き」(P80)。そしてそうした動きが「僕の目にはむしろ伝統回帰にみえます」(P80)。

 農山村でなければそうした暮らしはできないわけではなかろう。3巻目は「共同体」がテーマ。次も楽しみに読み進めよう。

 

 

○資本主義以前の経済は、労働の連鎖によって成立していた。…この構造は今日でも変わることはない。だが資本主義のメカニズムはこれとは異なっている。資本主義の出発点にあるのは労働ではなく貨幣である。…課題は貨幣の増殖であり、その手段としての資本の拡大再生産なのである。(P4)

○資本主義は原理だけで動いていくと…自滅する運命にある…。その問題点のひとつは…資本主義の原理が市場を縮小させるということ…。第2の問題点は悪辣な経営は反資本主義の動きを拡大してしまうということであり、第3に、貨幣の増殖を目的として展開するがゆえに…拝金主義が広がり、それが社会を荒廃させてしまうという問題である。資本主義自体はその原理自体が、持続性をもっていないのだ(P7)

○資本主義は、資本主義をすすめる側、批判する側、どっちの側にとっても非常に矛盾のある仕組みになっています。資本主義の側としては…労働運動や環境規制みたいな困った動きが発生して…むしろ健全に経済発展するという一面がある。反対に…資本主義を批判していろいろな…規制を実現させていくと、かえって資本主義が延命していくという一面がある。(P59)

○いまの投資を軸にした資本主義の仕組みが、どうみても持続性がない。…そういう時代であるからこそ…ちゃんとしたものづくりをやろうとか、ちゃんとした農業をやろうとか、そういう人たちもまた登場してくる。いまはそういうふたつのものが違う道を歩んでいる。世界の大勢は明らかに投資型資本主義の方向に向かっているのですけど。しかし社会のなかからふつふつと、それに抵抗する人たちが出てきている。(P68)

○「我々はいろんなものとつながりながら生きている」という生命感をもっている…戦後の日本はそういう考え方を痛めつけて、「自分のために生きましょう」という時代をつくりました。…でも、結局、個人の利益の社会には移りきれなかった。…わずか半世紀ぐらい経つと、もうそれに嫌気がさす人がたくさんでてきた。…もしかすると、これからおもしろくなっていくかもしれないという気持ちを強く持っています。(P100)