とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

夜明け前(が一番暗い)

 久し振りの内田樹。本書は2018年7月から2022年11月まで、AERAに連載されていたコラムを集めたもの。いずれも短いので、読みやすいとも言えるし、物足りないとも言えるかも。まあ、いつもの内田節で、どこかで読んだような内容のものも多いが、なるほどと思うモノもいくつかある。引用最初の凱風館共同墓の設立の話題は興味深いし、機械翻訳の話は確かにそうかもしれないと思う。特に英語が苦手なまま、高齢者になってしまった私にとっては。

 そして、本書を読みつつ、つくづく日本は酷い国になってしまったと嘆息する。タイトルのように、本当に今が「夜明け前」ならいい。でも、まだ未明くらいのような気もする。未来予想を書いたコラムもいくつかあるが、いずれも希望的な内容で、ほとんど当たっていないように思う。長期的には、その予想が当たることを期待したい。

 時々、内田樹を読むと、日本がいよいよ落ちぶれていくことがよくわかる。まるでカナリアのようだ。

 

 

○凱風館でみんなのお墓を建てましょう。そうすれば、凱風館が続く限り、その時々の門人たちが順番に供養してくれるから」と私が提案した。…道場の近くに門人たちが入れる墓を建てれば、季節のよいときにみんなで参拝して、泉下の先輩たちの思い出を語り合うこともできる。…過去帳如来寺に管理して頂き、私の後を継ぐ凱風館館長が末永く法要を営む。/子どもを育てるのも、弱者を支援するのも、死者を弔うのも、ほんらい集団の事業である。(P40)

○私の父は…子どもの私に向かって繰り返し「人を見る時は、自分の哲学を持っているかどうかを見ろ」と教えた。…父親の真剣なまなざしから、人間には、自分の手作りしたモラルに従って生きるものと、「人から借りた言葉」を振り回すものの2種類がいること、後者を絶対に信じてはいけないという気迫のようなものを感じた。…「空語」や「定型句」を濫用する人間を信じるな。(P92)

○「普天間飛行場の代替施設として国が名護市辺野古に計画している米軍基地建設のための埋立てに対する賛否についての県民による投票」…のうちには「普天間飛行場の代替施設が建設されなければならない」という政治的判断が迂回的に忍び込ませてある。…だとすれば、仮に辺野古の新基地が「代替」の条件を満たさないと判断された場合、米軍は普天間を返還する義務を免ぜられ、日本政府には返還を要求する権利がなくなる。(P120)

○あと数年で機械翻訳の精度はさらに向上する。機械の単価も遠からず電卓並みになるだろう。…そのとき、もう学校で英会話を学ぶ必要はなくなると自動翻訳の専門家は言う。…英語での円滑なコミュニケーションが全国民に必須だと思うなら、文科省はむしろ自動翻訳機械の精度向上と廉価化のために一臂の力を貸すべきではあるまいか。(P194)

○今の日本の指導者の方々には悪いけど「落ち目の国に最適化して、貧乏慣れした」人たちです。だから、彼らはもう日本をもう一度なんとかするという気はありません。もう日本に先はないんだけど、公共的リソースはまだまだ豊かにある。だから、公権力を私的目的のために運用し、公共財を私財に付け替えている分には、当分いい思いができる。そういう自己利益優先の人ばかりで政治や経済やメディアがいまは仕切られています。(P219)