とんま天狗は雲の上

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英語は「語源×世界史」を知ると面白い

 英語は苦手だった。というか、とにかく出来なかった。就職試験になぜか英語の試験があって、それがなければその後は違った経歴だったかもしれない、とまで思う。そもそも中学1年の時に、「sometimesはソメチメスだ」と言う友人がいて、そうやって覚えたのがここまで英語が苦手になった原因。という反省もあり、語源と一緒に覚えれば少しは覚えられるかもしれないと思って、思わず本書を手に取った。今さら英語を勉強する気もないけどね。

 でも、本書は語源の本というよりも、世界史の本。ローマの建国神話から始まって、キリスト教の誕生、ヨーロッパの各民族の隆盛と興亡、イベリア半島レコンキスタ、十字軍遠征と中世ヨーロッパの歴史、そしてルネサンスまで、ヨーロッパを中心とする歴史を振り返りながら、英語に取り込まれていった言葉を紹介する。これがけっこう面白い。世界史の教科書などでは取り上げないトリビアも織り交ぜ、これまで十分理解していなかった西洋史を学ばせてくれる。

 ゲルマン人が入れ替わり立ち代わりヨーロッパの東から西へ押し寄せ、ドイツやフランス、イギリス、スペインなどの国々ができていったことは知っていたが、4世紀からの西ゴート人、東ゴート人、ヴァンダル人、ブルグンド人、フランク人、アングロ=サクソン人、ランゴバルト人とそれぞれの移動の歴史と民族名の由来を紹介する。イギリスの「ノルマン・コンクエスト」も名前は知っていたが、その経緯などはわかっていなかった。イギリス王室はフランス・ノルマンディーの王朝だったのだ。だからノルマン朝と言うのだ。

 しかしこれで英語を覚えることができたかというと、ほとんど無理。読み終えるとともに忘れている。それでも、ヨーロッパという地域がいかに多くの民族の興亡の末に現在の状況になったのかということはよくわかる。そして、英語がいかに多くの言語の影響を受けているかということも。ラテン語アラビア語はもちろん、サンスクリット語まで。意外にこの調子で言葉の混合が進むと、数千年先には世界は一つの言語になっているのではないか。そう思ってしまうほどだ。

 

 

○ヨーロッパで話されているほとんどの言語…の起源は同一であり、基はインド・ヨーロッパ祖語(略して「印欧祖語)という一つの言語から…枝分かれしていったものと考えられている。…印欧祖語がいつ、どこで生まれたかについては…わかっていないが…仮にバベルの塔の建設計画が事実であったとすれば、その頃に話されていた人間の言語は印欧祖語であったと推測することができる。このように考えると、旧約聖書バベルの塔の話を単に荒唐無稽な作り話と片付けることはできないと筆者は思っている。(P5)

○「ミトラ(mitra)」は、サンスクリット語で「計量者」の意味で。歳月を測る者から「太陽神」、人間関係を量る者から「友情の神」「正義の神」「契約の神」とされる。…「阿弥陀」も同じ語源で、サンスクリット語の「アミターバ(amitabha)」と「アミターユス(amitayusu)」という2つの言葉に由来する。意味は「量り知れない命や光」のこと…。これらの単語は印欧祖語で「量る、測る」という意味のmeにさかのぼることができる。(P28)

○「ゴート人」は英語ではthe GothsまたはGoyhic peaplesというが、「ゴート風の」という形容詞Gothicには…「野蛮で教養のない」という意味が込められている。…「ゴシック建築」や…「ゴシック書体」も本来は軽蔑的な意味が込められている語であった。(P68)

イングランド王エゼルレッド2世は…デンマーク王スヴェンが1013年に…来襲すると…ノルマンディーに亡命してしまう。/これにより、スヴェンがイングランド国王と認められるが、…1ヶ月後に急死…。…エゼルレッド2世は…復位するも…1016年に亡くなる。/この状況を見たスヴェンの息子クヌートは…イングランドに来襲し、クヌート1世として…即位する。…だが、1035年に…亡くなると…1042年に、エゼルレッド2世の子である…エドワードが王に即位し、アングロ・サクソン人の王朝が復活することになる。…1066年にエドワードが亡くなると…義理の兄であるハロルド2世が…王位に就く。しかし、ノルマンディー公ギヨーム2世は…イングランド王国に侵入し、ヘイスティングの戦いでハロルド2世を討ち、イングランドウィリアム1世としてノルマン朝を開くことになった。…1066年の出来事は「ノルマン・コンクエスト」と呼ばれ、以降、300年に渡って、イングランド公用語はフランス語にな…った。(P85)

○「ジャンボジェット(Jumbo Jet)」という…名称は、19世紀後半にロンドン動物園で飼育されていた巨大なアフリカゾウの名前に由来する。…このアフリカ象は、のちに米国のサーカス団に売られ人気を博するが、興行途中に…機関車と衝突して死んでしまう。その事故の記事の中で、ほかの若い象を守るために自らを犠牲にしたという美談が掲載されたことで…一躍有名になった。…アフリカでよく使われる挨拶の「ジャンボ」はJamboと綴り…「お元気ですか」という意味になるそうだ。(P121)

○フリマアプリの「メルカリ」は、ローマ神話の「商業」の神でもある「マルクリウス(Mercurius)」に由来し、ギリシャ神話では「ヘルメス(Hermes)」に相当する。ヘルメスはフランスの高級ブランド、エルメスHermes)の基になっている。(P168)