泉房穂氏が明石市長を退任した翌日に本書は発行された。その後、泉氏自身の手で何冊も本が発行されているが、まずは本書を読んでおこうと思った。でもタイトルがよくない。「政治はケンカだ!」。これは政局好きな人にも面白いかもしれないが、「政局より政策」と考えていた私には、少し本書を手に取るのを躊躇した。だが、本書の中盤、インタビュアーである鮫島氏の言葉に衝撃を受ける。
○【鮫島】政局とは何かというと、多数派を得る闘いなんです。政局闘争に勝たないと過半数は得られない。そしたら改革は阻まれる。…自分の政治信条を曲げて敵と折り合うのではなく、自分優位の立場で相手に妥協を迫って引き込むことができれば、その政局は勝利です。…許されるあらゆる手段を使って政局的勝利を実現し、多数派を形成して政策を実現してみせる。…「政局より政策が重要だ」と主張する真面目な人々にこそ、政局の正しさを理解してほしい。(P82)
確かに、どんな素晴らしい政策であっても、実現できなければ絵に描いた餅に過ぎない。実現させるための闘い。それこそが「政局」。なるほど。そして、泉氏自身がそのことを最も深く理解し、行動してきた。どれだけ多くのマスコミ等から理不尽な攻撃を受けてもだ。そして、彼は強い。カバー裏面に「『四面楚歌』とか『絶体絶命』という言葉が好きだ。『人から嫌われたくない』なんて思ったことはない。」と書かれている。これは泉氏が書いた「まえがき」の中から抜粋し、まとめたものだが、私にはとてもここまでの覚悟はない。
安倍政権以降、あまりにひどい自民党政治。そしてあまりに情けない立憲民主党を中心とする野党。多少なりとも期待したいのは山本太郎らのれいわ新選組だが、なかなかその輪は広がっていかないし、小さい。なぜ正しいことが実現しないのか。しかし、明石市ではそれが起き始めている。それを引っ張ってきたのが泉房穂氏だ。
そして明石市長を退任発表後、次の明石市長選を始め、三田市長選、参院(徳島・高知)補選、立川市長選、岩手県知事選、所沢市長選と彼が応援した選挙は連戦連勝だ。政党を組織するのではない。首長から現場の政治を変えていく。その先に、日本の政治が変わる潮目があるだろうか。期待したい。
なぜ、日本の政党がダメなのか。それは自民党にせよ、立憲民主党などの野党にせよ、選挙を旧統一教会や連合などの組織に頼り切っているから。その実態を本書の後半で鮫島氏が説明する。先日も、連合の芳野会長が立憲民主党に対し「共産党と連立するようなら支援しない」と言っていた。泉立憲民主党党首はどうするだろうか。ぜひ連合とは手を切ってもらいたい。
日本の政治が変わるかもしれない。久しぶりに多少の希望を持った一冊だった。
○市長は駅伝の走者に似ている。ひとりでできることには限りがあり、自分でゴールを切ることはできない。歴代の市長がタスキをつなぎながらまちづくりを進めるものだ。/私も中間走者として、苦しい登り坂が続く区間を精一杯走り切った。悔いはない。苦しい区間を伴走してくれた市民が、これからも明石のまちを支えてくれる…。/まちづくりは…市民が選挙で選ばれた首長と一緒になるものというのが持論だ。…これからは私もひとりの市民となり、タスキをつないだ新しい市長とともに走る側にまわるだけだ。(P3)
○私、四字熟語でいちばん好きなのが「四面楚歌」。四面を敵に囲まれてしまっても、まだ空と地下が残ってる。そういう状況、ホンマに好き。「まだまだ行けるとこあるぞ」と、体中からエネルギーが湧いてくる。…天国でばかり暮らしてる連中は、極度に地獄を怖れるけど、私にとって地獄は馴染みの場所なんです。別に怖くもなんともない。(P53)
○要は「政治は誰のものか」ということ。政治は市民・国民のものなんです。市民の苦しさ、悲しさ、鬱屈した「なんなんだ」という気持ちを、社会を変えるエネルギーにしてもらいたい。そこで諦めるのは、あまりにももったいない。実はこれが、この本で一番言いたいことでもあるんです。(P167)
○【鮫島】旧民主党とか立憲民主党の議員に聞くと、「連合が持ってる組織票自体は大したことない」とみんな言う。…ただ、連合を切ると選挙の実務が回らない、と口を揃えます。…しかも、これまでずっと頼り切りだったから、ちょっとグレーなお金の回し方とかも全部見られちゃってる。今さら関係を切ると、旧統一教会のように秘密をバラされるリスクがある。だから、切りたくても切れないというのが、本音ベースの悩みです。それぐらい依存しちゃってる。だから立憲民主党は連合を切れない。(P182)