とんま天狗は雲の上

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絶望からの新聞論

 著者の南彰の名前は見たことがあるが、どこでだろう? 著書はこれまで読んだことはない。朝日新聞時代の記事でも読んだのだろうか? そして昨年10月、朝日新聞を退職し、11月に琉球新報に転職して記者を続けている。本書はそこに至る経緯や心情などを綴ったもの。日本の政治状況への批判もあるが、何より朝日新聞社の変節が綴られている。

 「新聞論」と銘打っているが、今後の新聞のあり方について論じた本ではない。筆者にはまだ新聞というメディアに対する期待が残っている。だが、本当に大丈夫だろうか。もう新聞というメディアは、地方以外では残っていかないのではないか。少なくとも、今のように権力側に忖度をした記事ばかりを並べ、自己検閲をするようなメディアは今後も必要とは言い難い。それなら、政府なり、政党なりが自分で情報発信すればいい。やはり欲しいのは、それらの情報をどう捉えたらいいか、という批評的な視点だ。第5章「批判を嫌う国」には、批判や忠告を感謝し、建設的な対話をする必要性が述べられている。まさにそのとおりだ。

 筆者は今後、沖縄でどんな記事を発信してくれるのだろうか。「ああ、南彰の記事だ」と思えるような発信を期待したい。まさに今、日本を絶望が覆っている。そんな気がする。

 

 

○情報公開や公文書管理が不十分なこの国において、個々の記者はオフレコ取材で相手に肉薄し、真剣勝負を挑んでいる。/ただ、懇談を主体にした現在の政治取材が、権力者側につけ入る隙を与えているのは間違いない。…「桜を見る会」をめぐり…首相側が呼びかけたのは、官邸記者クラブ…のキャップとの懇談だった。…疑惑を報じるメディアの信頼を削り、無力化する。「共犯者」に仕立てることが、政権側にとって都合がよかったのだろう。/安倍政権・菅政権では、懇談を使った「罠」が相次いだ。(P72)

○国連…特別報告者は法案や制度をより良くするために喜んで助言してくれます。日本も特別報告者と『建設的対話』をすべきで…積極的に活用すべきです。…大事な友だちが、何か危険なことをして傷つきそうなときに、警告をする友だち…クリティカル・フレンド…に対して『私は悪くない。おまえがおかしいのだ』という人がいたらどう思うでしょうか?…忠告に対して『ありがとう』と受け入れ、建設的な対話を行ない、改善するのが成熟した態度ではないでしょうか」(P114)

○保坂氏は初登庁でこう職員に呼びかけたという。/「行政は継続です。これまでの仕事の95%は継承して、5%は大胆に変える…いまの政治を変えるために…短期間に100%を実現するのはとうてい無理だ。じわじわと一つずつ、優先順位をつけながら実施していく。…毎年5%ずつしっかり変えることで、8年で3割、12年で4割以上の変化をもたらすことができる…政策を取られると言うから、けちくさい。野党はどんどん自民党に政策を取られればいい。自民党が取りつくしてもやっていけなくなったときに初めて政権交代するんだから」(P134)

○時の政権や権力者を批判したり、必死に声をあげて抗議する人々を冷笑し、茶化し、嘲るような風潮がいまあちこちで蔓延していますよね。…残念ながら、そうした風潮が朝日のなかでも蔓延しはじめているのではないか、…報道機関のなかで最も基本的なことが、それを支える現場記者のレベルで請われ始めているのではないか…。それは戦略も理念もないまま管理強化だけに走る現在の経営陣の姿勢によって形づくられた風土のなかでより増幅していっているのではないか(P204)