とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

日本解体論

 政治学者・白井聡と新聞記者・望月衣塑子の対談本である。白井からは「国体論」や「長期腐敗体制」で論じてきた内容が語られる。一方、望月からは取材の現場の実情が語られる。後者もけっこうリアルで生々しく、また意外に知られていないこともあって興味深い。

 当然、安倍政権から続く政治批判が中心である。そしてメディア批判、右傾化し劣化する日本社会への批判。第6章ではウクライナ紛争に対して、ウクライナ政界の腐敗とロシアの実情に対する論評が語られる。安倍元首相銃撃もぎりぎり間に合って、それに対する論評も書かれている。

 対談なので、気楽に読める。望月衣塑子が白井よりも年上で、結婚し、子供もいることを初めて知った。でもこれは私の偏見かな。いずれにせよ、二人にはこれからもさらに活躍されることを期待している。

 

 

○【白井】戦前が敗戦というかたちでエンドして…戦後は…平和に絶対的な価値を置いて繫栄してきたというかたちで語られてきました。…けれども…、3.11は、本当に戦後を終わらせた…しかし、いまだそこから逃げ回っている、あるいは開き直ろうとしているのというのが現実ですよね。…結局、平和と繁栄としての戦後は今や幻影でしかないのに、その幻影を手放したくないという…メンタリティが安倍政権を支え続けたわけです。(P22)

○【白井】戦前の天皇制は…かつて「無責任の体系」と…丸山眞男がネーミングしたように…畸形的な社会をつくり出した。戦後の「アメリカを頂点とする天皇制」も全く同じであり、そこに生きる人間をダメにするというのが私の議論です。…今の日本人を見ていると、自分の運命は自分でコントロールするんだという気概がないですよね。…「主権者である」ということの根本は、そういうことじゃないですか。(P27)

○【望月】自民党には…選択的夫婦別姓を進める会と進めない会、両方の勉強会があるのですが…自民党の進める会は…「どうしてもやらなきゃ」という熱量が足りない。…【白井】自民党の中にも一応推進している人がいるということだろうけれども、はっきり言って卑怯者じゃないですか。…「自分の議席は安泰であってほしい。けれども夫婦別姓は実現したい」。何を半端なことを言っているのか。極めてずるいんですよ。(P117)

○【望月】記事を発信するというのは社会に一石を投じることなんですね。だから、記者は社会がどうなっているのかという大きな枠組みをよく見ないといけない。…その中で「これでいいのか」というアンチテーゼを出していくという気概を持たないといけないんですよね。…メディアに携わっている私たちが…批判的に物事を見て、そしてきちんと権力サイドを検証するような記事や番組を作っていく。それが民主主義を守るためのメディアの役割の一つなんだという前提を取り戻すことが大事だと思う。(P164)

安倍晋三氏は「戦後の国体」の崩壊期たるこの約30年間の多数派日本人の欲望に対して忠実に振る舞ってきたのであり、だからこそ超長期政権を実現したのであった。…安倍氏の政治的成功は、畢竟 彼が「戦後の国体」の崩壊期にあって精神的混迷を深めている現代日本人の欲望の「神輿」であったことを物語っている。/そして…今後は改憲キャンペーンのさらなる強化のなかで、安倍氏の死はさらに利用されるだろう。…亡くなってもなお「神輿」として利用されるとは、何という運命だろうか。(P316)