とんま天狗は雲の上

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消費税のカラクリ

●政府の予算書をもとに概算すると、たとえば2008年度における消費税の(輸出企業に対する)還付総額は約6兆6700億円。この金額は同年度の消費税収16兆9829億円の約40%に相当している。(P102)

 近年、本を読んでこれほど怒りを覚えたことはない。消費税は、輸出を振興し輸出企業の経営を支援する税制だった。我々が支払った消費税の実に4割が輸出企業への還付金、実質の補助金として費消されている(もっともこれは予算ベースなので、決算ベースではもっと少ないことを望みたい)。
 還付金は輸出品について非課税とするための方策だが、実質、この還付金が下請け企業にまで還付されることはあり得ない。下請け企業は輸出品、国内消費品の区別なく、一律に消費税を払わされている。しかも国税局職員は非情なまでに零細企業に対して納税を迫る。
 本書が発行されていたのは知っていたが、「池田香代子ブログ:悪魔の税制 斎藤貴男『消費税のカラクリ』」「消費税が上がると輸出産業が儲かる」を読んで、読もうと思った。そして読み終わった今、ブログを読んだ時以上の怒りに震えている。
 本書は、この輸出戻し税だけでなく、零細企業の悲惨な実態、国民的に消費税許容論が蔓延する状況を作りだしてきたプロパガンダの実態(本末転倒の「クロヨン」マジック)、消費税に関する国際比較、消費税反対運動の歴史など、幅広く取り上げている。
 消費税に代わる税制案への答えも簡単だ。「所得税の累進税率を20年前のレベルに戻すだけで、所得税収は倍増する」(P209)。しかし、筆者はそのことに拘泥しない。「すべての税目を公平かつ一律に1%ずつ増税すればよい」(P213)。確かにこうすれば税収は途端に何割も増えるだろう。消費税議論や税制改正議論はそれからでも遅くない。
 僕らは政府や財界、そして特にマスコミのプロバガンダに簡単に乗せられやすい体質になっているようだ。

●(日本経団連の提言「豊かで活力ある国民生活を目指して」は、)あらゆる存在は経済成長のために捧げられるのが当然で、その牽引車たる多国籍企業、巨大資本こそがこの世の主人公なのだという自意識に溢れた提言だった。税制にも成長を促すか補完する道具としての役割ばかりを求めている。・・・主人公たる多国籍企業は経済成長を阻害しかねない要素も人間の容赦なく斬り捨てるが、全体を食わせてやっているのだから、それで割の食う連中を生かしておいてやる費用ぐらいは、食わせてもらっているお前たち下々が出してやりなさい、という論法であるようだ。(P24)
●消費税とは顧客や取引先との力関係で弱い立場にある中小・零細事業者、とりわけ自営業者に、より大きな租税負担を課し、あるいは雇用の非正規化を促進するなどして、社会的弱者が辛うじて得ていた生活費までをも吸い上げ、社会全体で産み出した富を多国籍企業やそこに連なる富裕層に集中させていくシステムである(P197)
●消費税増税を唱道する人々の思惑通りに事態が進めば、消費税率がまだしも5%だったから辛うじて生きてこられた零細自営業者は壊滅する。・・・大方の町工場も消え失せてしまうはずだ。・・・世の中の主人公は多国籍企業でも政府でも、それらと直結するエリート層だけでもないのだ。一人ひとりの人間が、みんな、互いに迷惑をかけ合いながら、けれども共に、支え合って生きている。誰もが共感し合える税制を目指そうではないか。(P217)