とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

自分でつくるセーフティネット

 佐々木俊尚は「グーグル Google」以降、多くの本を読んできている。「『当事者』の時代」はマスメディア論として興味深く読んだし、「レイヤー化する世界」も資本主義に代わる新しい社会システムとして、ビッグデータにより作られる「場」を楽観的に描いた本として面白い。
 そして「生存戦略としてのIT入門」という副題のついた本書は、フェイスブック等により作られる総透明社会を、それこそがITによる生存戦略であり、セーフティネットであるとやさしく語りかける。
 言わんとすることはわかる。本書でも引かれているが、山岸俊男「安心社会から信頼社会へ」の理論も正しいと思う。だが、まだ私は(筆者の言う)会社という「箱」の中にいる。佐々木氏に誘われたとしてもまだ、おいそれと「箱」から飛び出るわけにはいかない。だから、私のフェイスブックは、私のすべてをさらけ出してはいない。でも、いつかそれが有効な時や時代が来るだろうことは理解する。
 佐々木氏は常に少し先の世界を見ては、それをわかりやすく紹介してくれる。本書では特に、まるで語りかけるように、座談会のような文体で全体が書かれており、筆者の言葉に乗せられて、自分のすべてをさらけ出してしまううっかり者がいるかもしれない。でもまだ日本では早いと思う。すべてをさらけ出すには、相応の覚悟とスキルが必要だということは理解しておいたほうがいい。
 でも、佐々木氏の世界観は好きだ。他人を信頼し、多くの人とつながり、他人に寛容で、善き人であろうとすること。それが生存戦略となると考える世界観。私もそれを信じているし、信じていたいと思う。だけどやはりそのためには相応の覚悟とスキルが必要だということをもう一度書いておこう。自戒をこめて。

自分でつくるセーフティネット~生存戦略としてのIT入門~

自分でつくるセーフティネット~生存戦略としてのIT入門~

フェイスブックでは、自分の人間性を保証させるために、自分の日常や人間関係や写真をさらけ出さないといけません。・・・要するに、肩書きじゃなくて、中身そのもので勝負する時代になってきているんです。総合的な人間力で勝負する時代になってきているんです。・・・でも、みんなが肩書きの飾りを求めるんじゃなくて、自分の人間力を磨くように努力するようになれば、とても良い社会になっていく可能性があるんじゃないかとわたしは思っています。(P69)
●おせっかいなおばさんがいたような「世間」、会社という安定した箱がなくなって、ほっとくとみんな「透明な存在」になっちゃって、企業からも黙殺されてしまう社会。そういう変化が、実はインターネットで自分の信用度とプライバシーを交換できる仕組みを発達させてきたんじゃないかとも思うんですよね。(P78)
●総透明社会が到来して、人々の日常がみんなに丸見えになってきたことで、それで人と人の信頼が回復するってことが、アメリカでは2000年代ぐらいからだんだんと起きてきているという話なんですね。連続殺人鬼は減って、信頼が取り戻される。(P150)
●たったひとりの友人が、困った人を自分の力だけで助けようと思ったら無理でしょう。でもひとりの個人を、二十人や百人で助けることはできるかもしれません。・・・だから弱いつながりをネットの力も借りてつくっていって、ちゃんとメンテナンスしていく。それがね、これからのリストラ社会を生き延びるために必要な知恵であり技術である、ということ。・・・これこそが新しい「情の世界」であり、新しいセーフティネットになっていくということなんですよ。(P154)
●自分は中途半端な立ち位置であることを自覚し、善人にもなれないし偽悪者でもないと自覚し、そして他人に寛容になることを目指していく。見知らぬ他人をそうやってまず信頼し、そこから多くの人と弱いつながりをつくっていくこと。これが会社という共同体の「箱」が薄れつつあるいまの時代にとって、最強かつオンリーワンな戦略であるということです。(P200)