本来、相反するはずのグローバル化とナショナリズムが手を携え、同時に進行しているようにみえる。これは日本だけでなく、世界的な傾向だとも言える。なぜグローバル化とナショナリズムは同時進行するのか。そもそもナショナリズムとは何か。ナショナリズムと民族、主権、文化等との関係はどうなっているのか。
また、民主主義や社会主義、右翼・左翼、革命などの政治思想とナショナリズムとの関係はどうか。さらには、コミュニタリアニズムや新自由主義、新保守主義との関係は? 3部ではグローバリズムについて問う。グローバリゼーション、帝国主義、マルチカルチュラルズム(多文化主義)、マイノリティ、コスモポリタニズムとは。最後にソーシャルメディアについても。
これらのタームについて、「読む事典」としてそれぞれの術語を解説していく。そこには学会の通説と各執筆者によるオリジナルな考えが記述されている。
正直、かなり難しい。社会学や政治学等の専門家でないと理解できない部分も多い。それでも素人ながら読み進めると、いくつかの特徴的な関係が見えてくる。ネイションとはそもそも物語的なものであること。新自由主義と新保守主義の構造的な結びつき。文化本質主義の恣意性。国家の無力化がナショナリズムを駆動すること。
最近ようやく安部政権の不安定性が見え始めた。今後、日本や世界の情勢がどうなるかわからないが、本書も踏まえ、グローバリズムやナショナリズムの動向も冷静に見ていく必要がある。そのことを改めて肝に銘じた。
- 作者: 大澤真幸,塩原良和,橋本努,和田伸一郎
- 出版社/メーカー: 新曜社
- 発売日: 2014/07/31
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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●ネイションの本質的な特徴・・・は、大半のメンバー同士が互いのことを知らず、一生会うことすらないのに、強い連帯感、命がけの同朋意識をもっている、という点にある。・・・ネイションは、小説の読者の視点と同じような、神の視点に類する超越的な視点を媒介にして、想像されるのである。(P83)
●通常戦争とテロリズムを原理的に区別することは極めて難しい。権力と正当性をもつ国家が行うのが「通常戦争」で、それらをもたない敵対者が行うのが「テロリズム」である、という非対称的な力関係によって両者は異なったものに見えているだけなのかもしれない。テロリズムへの私たちの嫌悪が、私たちに敵対する側が行使する暴力に「テロリズム」というレッテルを貼り、それに対抗する自分たちの暴力を「通常戦争」として正当化しているということだ。(P105)
●新自由主義における・・・さまざまなズレ(理論上の、理論と現実の、導入された国々の政治風土との)・・・は新自由主義を推進する上で欠陥になるわけだが、経済学的にその推進を根拠づけられない場合、イデオロギーに助けが求められる。このようなものとして新保守主義が要請されるのだ。・・・新保守主義は、何かへの敵対感情において人々を感情的に一体化させつつ、秩序を乱すものには容赦なく弾圧することにみんなが賛成する社会を形成する。・・・新保守主義的な強権的な国家と自己矛盾を抱えた新自由主義との結びつきは「構造的」なものなのである。(P206)
●本来人間は日常のなかで、自分のなかにあるさまざまな「顔」(=役割や自己規定)を状況に応じて使い分けている。・・・本来、人間とは無数の「内なる差異」を抱えている存在なのである。それゆえ移民や外国人を均質で不変の文化やアイデンティティをもった人々とみなす文化本質主義のまなざしは、常に現実と異なっている。移民も外国人も、そうではない人々と同様、家族として、労働者として、故郷から離れた越境者として、そして日本社会の住民としての自分を同時進行的に生きているのだ。(P273)
●国家の無力化は、国民を失望させ、その自尊心を傷つけることになる。その補償を求める感情が、一見政治的にも文化的にも時代錯誤的な印象を与える、新しいタイプのナショナリズムをもたらす。・・・たとえば、切迫した軍事的脅威にさらされてもいないのに、軍事力・防衛力の強化につながりうる制度整備や法改正をもくろむ政策は、こうした願望に対応している。つまり、こうした政策は、国家の無力化の反作用である。(P323)