とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

皇国日本とアメリカ大権

 「序論」で、以下のように書かれている。

○『國體の本義』の皇国主義が洗脳であったとすれば、脱洗脳をすませない限り、その洗脳の効果は残ってしまう。…では、脱洗脳をするには、どうすればよいか。/『國體の本義』のテキストと、正面から向き合うことである。(P028)

 また、「結論」では、以下のように書かれる。

○人びとは、戦争に負けたのでも、軍部に負けたのでも、ない。人びとは、皇国主義に負けたのだ。皇国主義の「ロジック」に負けたのだ。…皇国主義は、病理である。ナショナリズムにとりついた、ガン細胞である。…皇国主義の正体をつきとめ、解除すること。本書が目標としたのは、これだ。(P272)

 このため、本書ではまず、『國體の本義』を読む。第1部ではもっぱらひたすらに『國體の本義』を読んでいく。『國體の本義』は昭和12年に発行された。その内容は天皇親政説であり、皇国主義である。そしてこの書物に基づき、多くの軍国少年が生まれ、日本人は軍国主義の道を突き進んでいくこととなった。では敗戦とともに、皇国主義は日本人の心から消え失せたのか。いや、未だにその洗脳は解けていない、と筆者は言う。そして今再び、皇国主義の亡霊が人びとの心を捉えようとしている。『國體の本義』を読むことで、皇国主義のロジックを暴き、人びとの洗脳を解き、天皇制の意味を知る必要がある。

 けっして、天皇制を否定しているわけではない。イギリスやオランダのように立憲君主制の国はあまたある。だが、万世一系を誇り伝える皇統は日本にしかない。天皇制がどういったメカニズムにより、人びとの心の中で機能しているのか、どういう役割を果たしているのかということを理解することは、今、日本という国で生きていく上で重要なことだ。昨年、天皇が代替わりし、新たな元号「令和」が始まった。我々はこの新しい天皇とともに、新しい時代をいかに生きていけばよいのだろうか。

 新型コロナの世界的な感染拡大に伴い、天皇というスクリーンを通してアメリカに服従しておれば足りた時代から、時代は大きく変わろうとしている。そして日本の進路も重大な転機に差し掛かっているように感じる。こうした中、日本独自の天皇制という仕組みを抱えつつ、いかに国を運営し、また国民は生きていけばいいのか。本書はこうした日本のあり方について再考することを迫っている。

 

皇国日本とアメリカ大権:日本人の精神を何が縛っているのか? (筑摩選書)

皇国日本とアメリカ大権:日本人の精神を何が縛っているのか? (筑摩選書)

  • 作者:橋爪 大三郎
  • 発売日: 2020/03/13
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

伊藤博文の『憲法義解』は、合理的であり、乾いている。通読すると、天皇機関説の考え方で貫かれていることがわかる。国際社会との連続性を意識している。…それに対して、『國體の本義』は、神秘的であり、湿っている。天皇親政説に浸りきっている。国際社会と断絶しようとし、日本独自の優位性を主張しようとする。昭和の総動員体制は、こうした人びとによって推進された。(P062)

○天命は、天が君主(皇帝)に下すもので、大勢の候補のなかから適任のものを選び出す。…神勅は、天命と違って、赤の他人ではなく身内(皇孫)に下されている。…神勅は、守られたのかどうかの基準がはっきりしない。いわば、丸投げである。…神勅は、契約としての性質を、いちじるしく欠いている。…天皇に徳があるのか。…いや、天皇であれば、徳は自然にそなわってくる。苦しまぎれもよいところだ。(P084)

○『國體の本義』は西欧文明が、普遍主義だと認めている。…日本を包摂するだけの潜在力があるのだ。…そこで日本は、何とか対抗しようとする。日本には、独自の文化と伝統があります。天皇がいます。国体があります。…だから日本は、特殊なままでいさせてください。…普遍主義の西欧文明と、西欧文明からいいとこ取りした日本と。日本が、西欧文明と並んで、誇りをもって併存する。虫のよい話である。(P139)

天皇は、人びとが自己同一性を脅かされているのに、脅かされていないと感じる仕組みである。/言い換えよう。天皇がいれば、自己同一性の大幅な入れ替えや変容を、はかることができる。この点、天皇は大変に有用である。こうして日本は、これまでいくたびも。重大な試練を乗り切ってきた。…天皇親政と国体は、日本が、西欧化・近代化を進めても、自己同一性が失われていないことを確信するための、おまじないのようなものだった。(P199)

天皇は、アマテラスと歴代天皇を、皇祖皇宗として祀り、あがめる。そのことを通じて、日本の人びとのあいだに、同一性と安定を与える。/その天皇アメリカを、アマテラスのようにあがめる。…こうして国体が守られたのである。/天皇が、アメリカと日本のあいだの、スクリーンになる。/アメリカがどのように日本を干渉しようと…日本の同一性が保たれる。…天皇がいるから大丈夫、と。/しかし、こんなまやかしに満足してはいけない。(P217)