とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

うどん陣営の受難

 津村記久子「ディス・イズ・ザ・デイ」から読み始めたが、その後は出るたびに読んでいる。今年の夏には「つまらない住宅地のすべての家」NHKでドラマとして放送されていた。けっこう津村ファンっているんだなと思った。

 今年読んだ「水車小屋のネネ」もよかった。何と言っても、彼女の作品の主人公はいたって普通なのだ。そして本作品の主人公の小林さんもいたって普通。もっとも、本書のシチュエーションは少し変かな? 会社代表を社員の選挙で決める会社。代表者の名前は、緑山氏と藍井戸氏と黄島氏。そして緑山氏の下に集まった社員はみんなうどん好き。麺類もいろいろあるけど、うどんが一番普通だ。

 でも「普通であることはなんと失われやすく貴重なのか」と書かれている。確かにそのとおり。普通でいたいが、なかなか人生はそれを許してくれない。でも心の中だけは、いつも普通でいたい。津村記久子の小説はいつもそんな普通を思い出させてくれる。だからこれからも読み続けていこうと思う。

 

 

○彼女が<信念>と口にするたびに、周囲の空気がお互いに恐る恐る目配せし合うようにシリアスになっていくのを感じる。良心ある我々は、信念を持った人を邪険にすることはできない。/でも、と私は思う。<信念>はプラスに取られやすいが、実はニュートラルな言葉だ。悪い信念も、間違った信念も普通にある。(P58)

○池田先輩が秋野さんと一緒にいるところを見るとなんとなく安心したのだった。ニコちゃんの死や、池田先輩の休職や、代表選出をめぐるこの騒動の前にはそんなに珍しいことでもなかったのに、普通であることはなんと失われやすく貴重なのか、と柄でもなく思った。それこそ本当にこの、中身が溶けてしまったアイスモナカのように。(P89)