とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

2021年、私が読んだ本ベスト10

 今年は本を読まなかった。わずかに49冊。特に退職後、妻の相手をする毎日の中で、読書の時間が取れない。9月以降に大学の後期が始まって以降は、講義準備に追われて、さらに本を読む時間がなくなった。週2冊のペースが、いつしか2週間に1冊になってしまった。今年読んだ本を見返すと、まず☆についたタイトルが少ない。わずか7冊。例年だと、☆を付けた本から10冊に絞る込むのに、今年はもう一度見返して、☆を付けなかった本から何冊かピックアップした。来年はもっと多くの良書に巡り合いたい。そのためには一日の中に、読書する時間を何とか見つけ出さなくてはいけない。

 

【第1位】愛と性と存在のはなし (赤坂真理 NHK出版新書)

 今年は順位を付けるのが難しい。迷った末に、第1位に選んだのが本書。やはり女性の性感について赤裸々に描写している点が衝撃的。最近は、男性・女性に分けられない、LGBTなどの性マイノリティについて取り上げられることが多いが、結果的にそれが男性と女性の問題から目を逸らす結果になっているのではないかと危惧する。もっと真摯に、男性と女性の違いについて正面から認識すべきではないか。その意味でも本書は意味があると思う。

 

【第2位】蹴日本紀行 (宇都宮徹壱 エクスナレッジ

 宇都宮徹壱の本は今年、「フットボール風土記」も読んだが、そちらは昨年の発行に対して、本書は今年になって刊行されたもの。前書の方が内容的にはしっかり掘り下げられているとは思うが、47都道府県すべてを網羅して紹介していくというコンセプトがいい。写真も楽しく、また色々なところを旅行したくなってくる。

 

【第3位】時間は存在しない (カルロ・ロヴェッリ NHK出版)

 「時間はなぜ存在するか」と言えば、人間が「エントロピーが増大するという特殊な系にいるから」という答え。時間のある世界の方が特殊で、時間のない世界の方が一般的という見識。「時間は存在しない」というタイトルにはそういう意味が込められている。そして時間のない世界ではもはや生も死も意味がなくなる。時間とは「途方もない贈り物」だと言うのだ。

 

【第4位】WHAT IS LIFE? (ポール・ナース ダイヤモンド社

 理科科学的・物理的・情報的」という定義は理解できるが、それ以上、踏み出さないのが生物学者としての矜持か。教科書的に段階を追って説明していくまとめ方もいかにも生物学者っぽい。

 

【第5位】日本習合論 (内田樹 ミシマ社)

 多様性は大事だと思う。それを「習合」と表現するのは、「内田樹」的。「習合」とは「寛容」と同義語であり、「民主的」ということでもある。「有閑階級=非生産者=専門家をより多く擁している集団のほうが生き延びる力は強い」(P211)という文章はショックだった。なんて不条理な事実であることか。

 

【第6位】むずかしい天皇制 (大澤真幸・木村草太 晶文社

 真子さまは無事結婚できてよかった。最近は一時ほどにはマスコミで報じられることも少なくなった。いいことだ。確かに「天皇制はむずかしい」。いっそ無ければいいと思うが、「廃止するのも大変」ということも本書を読んで理解した。いっそのこと、継承者がいなくなった方がいいのかもしれない。今のままだといずれ、「あいつを天皇にするくらいなら、いっそ廃止しよう」となる可能性もあるのではないだろうか。

 

【第7位】彼らは世界にはなればなれに立っている (太田愛 角川書店

 久し振りに読んだ太田愛の作品は、これまでとガラリと変わって、ファンタジーだった。最初の1枚の写真に登場する11名の人々。しかし彼らが再び生きて出会うことはなかった。救いのない物語。そのことの意味を深く心に感じる必要がある。

 

【第8位】つまらない住宅地のすべての家 (津村記久子 双葉社

 凡庸な感じの作品だが、津村記久子の作品には、心に沁みる温かさがある。けっしてドラマチックでもダイナミックでもないが、庶民的で淡々とした調子が快い。庶民の生活には救いがある。世界には救いはないかもしれないけど。

 

【第9位】「中国」の形成 (岡本隆司 岩波新書

 清朝の成立と没落、そして現在に至る「中国の形成」を丁寧に解説する。「一つの中国と多元化する世界の間で模索を続ける中国」という見方は正しいのか。そして世界もまた、「多元化する世界」にどう対応したらいいのか模索している。では日本はどうするか。アメリカ追従だけではけっしていい未来にはつながらないだろう。中国の未来は、未来の世界と密接につながっている。

 

【第10位】ワカタケル (池澤夏樹 日本経済新聞出版)

 第10位には何を選ぼうかと少し迷った。他の候補は、「海神の子」(川越宗一 文藝春秋)、「コロナ黙示録」(海堂尊 宝島社)、「旅する練習」(乗代雄介 講談社)。川越宗一の「熱源」は昨年第2位に選んだ。それよりは劣るかな。海堂尊の「コロナ黙示録」はもう少しコロナ禍の経過を見てみたい。乗代雄介は引き続き、来年上期の芥川賞の候補に挙がっている。そこで「ワカタケル」。池澤夏樹らしい世界観も窺え、興味深い。