とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

人は違和感が9割

 芸人やタレントで、リベラルな立場からしっかり主張し、コラムなどを書いているのは、ラサール石井松尾貴史くらいか。もっとも二人のコラムは、Xの投稿などを辿って、新聞に掲載されたものを読むだけで、まとめて本になったものを読んだことはなかった。松尾貴史毎日新聞に「ちょっと違和感」という連載を続けており、そこから単行本になったのは、本書で4冊目となるそうだ。2021年11月から2023年3月までのコラムを掲載している。

 最初のコラムは、森鴎外役で出演した舞台の話。その後も、高齢ドライバー事故の報道や似顔絵と肖像画の違いなどのコラムが続き、「あれ、松尾貴史の本業は何だったっけ?」と思わず、巻末の経歴欄を読んでしまった。「俳優、タレント、ナレーター、コラムニスト、『折り顔』作家など」と書かれている。そうか、俳優が一番なのかな。

 政治的なコラムも、期待に違わぬ、合理的で説得力のある内容のものが多い。ちょうどこの期間中には、安倍元首相の襲撃事件や国葬義などがあって、もちろん松尾氏も政府や岸田首相の不誠実な対応を批判している。だが、どうしてもこうした内容は、やはりその時点で読むに限る。今であれば、裏金問題や能登半島地震に対して、どういうコラムを書いているか気になる。

 ワイドショーに対して批判的なコラムもあるが、最近はサンデーモーニングにコメンテーターとして出演している姿も時々見かける。青木理氏の代役という感じだが、今後もテレビで松尾氏の姿をもっと観たいと思う。がんばってください。

 

 

○似て非なるものというくくりでいえば、「政治家」と「政治屋」という例もあろう。…片や、世の中を良くしたいという正義感、使命感、義憤をもって政治の世界に飛び込んでくる者。片や、何不自由なく育ち、さしたる正義感も義憤もなく、例えば親の地盤、看板、カバンをすっかり譲り受けて容易に国会議員の職を手に入れて、既にエスタブリッシュメント(既成の権威)化された利益関係や…「家業」「稼業」に努め、次の選挙で議席を守ることを最優先に行動する者。(P023)

○日本の大都市での感染拡大の大きな原因は飲食店ではなく、通勤通学の満員電車だろう。…科学技術立国を標榜する日本なのに「科学的考察」「客観的事実の観察と検証」などは、もはやどうでもいいことになってしまっているのではないか。…権力を持つものは、メディアも含めて、科学的根拠、客観的事実を可視化すべきだ。(P062)

○「媒体への圧力は効いている」「組閣で目くらましをすれば、ほとぼりを冷ませる」「国民はすぐに忘れる」……。この10年ほど、彼らは「うまく」やってきた。改ざんや隠蔽で情報をどうにでもできたという成功体験が、慢心、増長を促し、かえって自民党の崩壊を促進しているのだろうか。いや、本当はもう崩壊しているのに、ハリボテだったのかもしれない。ここで崩壊しなければ国全体が崩壊してしまう…。すべては、国民の意思表示の強さとメディアの覚悟にかかっている。(P131)

○なぜ、ファイティングポーズをとれば、相手が攻撃してこないと思い込んでいるのだろうか。握手の手を差し出せばもっと攻撃のリスクは小さくなるのに…/攻めてきた、攻めそうだ、だから敵基地を攻撃できる。それで得られる安心などみじんもない。…日本が「反撃」と称して攻撃を始めれば、別の基地からの攻撃を受けて、日本の大都市はあっという間に焦土と化すだろう。(P181)

○作家の大江健三郎さんが亡くなった。…執筆活動の傍ら、日本国憲法を守る啓蒙活動もしておられた。「憲法9乗こそが日本の安全保障である」ということを、分かりやすく伝えてきた。社会に閉塞感があると「なんでも変えてしまえ」というムードが湧きがちだが、それに警鐘を鳴らしてくれていたのだ。あまねく国民一人一人に健康で文化的な生活をする権利があることを権力者に約束させてくれている憲法を、権力者が自分たちに都合良く変えようとすることに…力を貸すようなことはしてはならない、と教えてくれていたのだ。(P210)