とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

競争闘争理論

 だいぶ前に「スポーツはすべて記録型と対戦型に分けられる?」という記事を投稿したことがある。本書ではまず、すべてのスポーツを「競争型」と「闘争型」に分ける。ほぼ私の分け方と同じだ。本書ではさらに、それぞれを「個人」と「団体」に分け、さらに「闘争型」のスポーツから、道具を介して相手プレイヤーに妨害を加えることが許されているゲームを「間接的闘争」を分ける。するとサッカーは、間接的ではない「団体闘争」に分類される。ちなみに、私の記事では、野球やソフトボールについてはやや迷いながら、得点を争うものだから「記録型」に分類したが、本書では「間接的闘争」に分類する。

 その上で、ゲームは「①思考態度」から「②思考回路」を経て「③実行」へ至るが、最初の「思考態度」において、競争型と闘争型では全く異なるはずなのに、われわれはサッカーの練習の段階から、競争型の思考態度を持ってしまっているのではないか、と指摘する。競争型と闘争型の決定的な違いは、前者は「相手に妨害されず、技術を発揮する(実行)する権利が保障されている」のに対して、後者は、この種の権利は保障されず、「相手に影響を与える権利が保障されている」点にある。よって、「団体闘争」型のサッカーにおいては、いかに相手に影響を与えるか、与えられるかが実践される「試合」こそが重要であり、「試合」→「練習」→「試合」のサイクルこそが重要だ。練習を重ねれば、試合に勝てるわけではない。それこそが「競争的思考態度」だと批判する。

 さらに「団体闘争」で、「相手に影響を与える」ためには、自チーム同士のコミュニケーションが欠かせない。そのためには、ジェスチャーや意図を表すための「感情表現」が重要になる。そして、日本社会はそうした表現の表出を下品なもの、無粋なものとして抑えつけてきた。それが、日本が「団体闘争」型のスポーツで良い成績が残せていない原因ではないかと指摘する。

 後半では、ゲームの状況を、「攻撃」と「守備」そしてそれら相互のトランジションの4局面に分類する構造理解に加え、「はやく相手ゴールに向かう=ダイレクト・フェーズ」「ゆっくり相手ゴールに向かう=ポゼッション・フェーズ」「はやく相手ボールに向かう=プレッシング・フェーズ」「ゆっくり相手ボールに向かう=ブロック・フェーズ」の4つからなる「インテンション・サイクル(意思・意図の循環)」を組み合わせた、戦術分析も説明されるが、これはやや難しい。大事なのは、こうした意思・意図をいかに味方に(観客に)伝えるかだ。

 かなり分析的で、面白い。西欧の戦術を単純に紹介する類の戦術書などと比べると、日本サッカーの現在地とこれからの進化の方向を考える上でも、非常に興味深い。それにしても、競争型と闘争型の違いは大きい。そして、日本社会の中でプレーする者が「思考態度」から改めるのもかなり大変だろう。早くから海外へ移籍する効用はこの点にこそあるのかもしれない。

 

○「サッカー」というゲームは、…両プレイヤーは「同じ時間」かつ「同じ空間」で優劣を競い、また個人ではなく団体で行う(かつ、妨害に道具を介しない)ため、「④団体闘争」に属している。/ここで注目する価値があるのは、日本がこれまで世界のトップを争ってきた(いる)ゲームは、そのほとんどが「①個人競争」「②団体競争」「③個人闘争」「⑤間接的個人闘争」「⑥間接的団体闘争」のいずれかに属しているということだ。(P53)

○プレイヤーは通常、ある「①思考態度(認識→解釈)をとり、その思考態度をもとに「②思考回路(認知→決断)」の段階を経て、「③実行(行為)」することができる。…日本サッカーはこれまで、そして現在も、プレイヤーの「③実行」、あるいは「②思考回路」へのアプローチしか行ってこなかったのではないか?…しかし…日本人がエラーを起こしているのは…「①思考態度」なのである。…それは…西洋人…が「わざわざ捉える必要のない前提」であるから、私たちが自ら行わなければならないのだ。(P77)

○「闘争」に分類される…ゲームにおいては、ゲーム中に相手プレイヤーから妨害を加えられる可能性があり、「技術を発揮(実行)する権利が“保障されていない”」。よって「技術を高めることからスタートする」ことは理論上誤りである。その代わり「相手プレイヤーに影響を与える権利が保障されている」のであるから、「どうすれば相手プレイヤーに…より効果的に影響を与えることができるのか」を、理解することから始めるべきである。(P90)

○私たちが…上手くやればやろうとするほど…「内的集中」に入ってしまうのは、サッカーを「正しいことを選択(実行)する」ゲームであると誤って解釈しているためである。…しかしサッカーは、正解を選択していくゲームではなく、選択を正解にしていくゲームである。これは“思考態度が”誤っていることによって、実行レベルにエラーが発生することを示す、良い例である。(P138)

○サッカーのゲームをプレーし、目的を達成したい者は、強い「意思」を持たなければならない。そしてそれを自らの大きな声やジェスチャーによって、あるいは全身で、(他者に分かるように)表現しなければならない。…だから、サッカーには「気持ち」や「モチベーション」が重要なのである。…その「意思」の弱さは、あるいはその表現力の弱さは、日本社会をそのまま物語っているようである。(P237)