とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

<きゅんメロ>の法則

 「ザ・カセットテープ・ミュージック」(BS12)は欠かさず見ている。本書も放送で紹介していたが、なんと地元の図書館の新書リストに掲載されていたので、思わず予約してしまった。タイトルの<きゅんメロ>は、「F→G→Em→Am」と続くコードのことで、洋楽ではあまり見ないのに、Jポップには圧倒的に多いと言う。

 第1章「『きゅんメロ進行』とは?」の解説に続いて、第2章では、具体のJポップを30曲取り上げ、いかに「きゅんメロ進行」が使われているかを紹介する。荒井由実の「卒業写真」もあれば、YOASOBIの「夜に駆ける」や「群青」も。全部で30曲。中でも最古というのが、ザ・スパイダースの「あの時君は若かった」。そして、単に「F→G→Em→Am」進行だけでなく、セブンスを駆使した「Dm7→G7→Em7→Am7」や「F→G→E7→Am」、「F→G/F→Em→Am」といった分数コード、さらに9th、カノン進行、「maj7」と「m7」の効果、不協和音の活用など、次第に内容はマニアックになっていく。でも、具体の曲を例に説明するので、わかりやすい。というか、これらはいつも「ザ・カセットテープ・ミュージック」で話していることなんだけどね。

 そして、第3章では、「ザ・カセットテープ・ミュージック」の相方であるマキタスポーツと、音楽プロデューサーにして作曲家でもある川原伸司との対談が2本。特に後者では、日本で「きゅんメロ進行」が始まったのは、イギリスの女性歌手、ヘレン・シャピロの「悲しき片思い」で、こうしたヨーロッパ系のヒット曲を参考に「F→G→Em→Am」進行が取り入れられたという話から、さらには「ベートーヴェンピアノソナタ第8番『悲愴』がそもそもの源流ではないか」という話まで出て、どこまで本当かわからないが、とにかく面白い。

 「ザ・カセットテープ・ミュージック」は、2017年から放送が始まっているが、その後、中断期間があり、昨年10月からシーズン2.1が始まった(ちなみにシーズン2はわずか4回で休止)。今度こそ、いつまでも続けてほしいと願っている。

 

 

○Jポップにおいて…「刹那」と…「切なさ」は非常に重要な要素なのです。…「F→G→Am」ではなく「F→G→Em→Am」と「Em」が入ることで、コード進行に「切なさ」が漂う。そしてそこに切ない歌詞が上乗せされて、初めてJポップが成立するのです。…そして、そんなコード進行が…永遠に終わらない。だから「きゅん」がずんずん心に積み重なることで、人々を虜にしてしまう―。(P15)

○「Fmaj7」は「ファ・ラ・ド・ミ」という構成音です。これをよく見ると「ファ・ラ・ド」という「F」=メジャーコードの上に「ラ・ミ・ド」という「Am」=マイナーコードが乗っている構造になっています。/逆に「Em7」は「ミ・ソ・シ」という「Em」=マイナーコードの上に「ソ・シ・レ」という「G」=メジャーコードが乗っている。/マイナーの上にメジャー、メジャーの上にマイナー。「maj7」と「m7」は、同じ「きゅんメロ・セブン」でも、対極的な関係になっていることがわかります。(P83)

○「Woman “Wの悲劇”より」…は、前半「Dm→Dm7/G」、つまり「Dm7」という「レ・ファ・ラ・ド」というコードをバックに、ミという伴奏にない音が歌われている…。つまりは、ちょっと浮いている感じがする。…後半「Cmaj7→Am7」も…ちょっと不協和音。/だから、大げさに言えば「ずっと外れた音で歌っている」…。でも、その外れ方が美しい響きを醸し出し、またその反面、ちょっと不協和音にも感じて、ちょっとザワっとするということなのです。(P152)

○【川原】ベートーヴェンピアノソナタ第8番「悲愴」…の第2楽章が…「C/E」…だぶんこれが…「きゅんメロ進行」の最初だと思う。/【スージー】カノン進行は「パッヘルベルのカノン」が起源ですし、マキタスポーツが「ドラマチック・マイナー」と名付けた「Am→F→G→C」は、ドヴォルザークの「8つのユーモレスク」起源だって言うんです。そうか、「きゅんメロ」は「悲愴」かぁ~。【川原】だからヨーロッパ起源(P179)

○輸入され続ける洋楽がどこか完全無欠過ぎて…どこか他人事のように思えてしまう…そこで…遠くヨーロッパから聴こえてきた「Em→Am」に飛び付いた。…「F→G」という真っ直ぐ明快な世界に陰を与えるし、「Em→Am」に流れることで、陰に中に「切なさ」から「悲しさ」へというデリケートな「陰翳」が入るし、そして、なんだか全体的に未練がましいから、未練がましい歌詞とピタッと合って最高!…となったのではないでしょうか。(P195)