とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

澤穂希の拓いた道

 なでしこジャパンのW杯制覇、ロンドン五輪での銀メダル以降、なでしこ本が多く発行され、書棚を飾っている。その多くは既に知っていることも多いし、変に教訓本になっていたりして読む気が起きない。その中で、澤の半生記、特にアメリカでの日々のことはあまり知られていない。そこに興味を持って読み始めた。ちなみに澤本人への取材は過去の報道からの引用だけ。もっぱら澤の周辺の人々への取材だけで書き上げられている。よってどこまで真実かは定かでない。
 大阪・高槻での幼少期、安満SCで初めてサッカーボールに触った。その後、府中市へ引っ越す。有名な府ロクでの日々。同期の梶山と宮坂が澤を語る。もっともサッカー以外の思い出が多い。ベレーザでの本田美登里との出会い。Lリーグの隆盛。高校生で出場したアトランタ五輪での挫折とLリーグの凋落。帝京大入学後の悶々とした日々。そして渡米。世界選抜チームへの参加で流れが変わり、WUSAでの活躍。
 しかし9.11勃発の余波からWUSAの解散。ジェームズとの出会いと別れ。そして日本復帰。以降はアテナ五輪、W杯中国大会、北京五輪、そしてW杯ドイツ大会での優勝、ロンドン五輪での銀メダルと続く。
 やたらとドラマティックな書き振りには閉口するが、澤の半生を筆者なりに追いかけ伝えてくれる。サッカーを知らない俄かなでしこファン向けの本だが、サッカー専門誌では書かれないようなことも書かれており、それはそれで興味深い。

なでしこ―澤穂希の拓いた道

なでしこ―澤穂希の拓いた道

●大阪・高槻から東京・府中へ―まさに下町の師匠たちが、W杯のMVP、さらにはバロンドールを育てあげたのだ。興味深いのは、彼らがサッカー素人だった事実。・・・澤を育てる上で、これが効果的だった、と彼ら自身、口を揃える。「サッカーが上手であれば、テクニックを優先的に教えたがるけれど、高等技術を授けようにもそれができない。で、何を一番教えたかといえば、スポーツに取り組む姿勢とマナー。そこが基本だ。」(P55)
●歴史と同じで、人生も「もし、……であれば」は意味がないと思うけれど、もし、9.11テロがなかったら。もし、WUSAが休止にならなければ。もし、ジェームズと澤の愛が貫かれていたら……。運命に翻弄される一人の女性の、哀しくも逞しき選択がそこにある。(P126)