とんま天狗は雲の上

サッカー観戦と読書記録と日々感じたこと等を綴っています。

これから世界はどうなるか

 副題は「米国衰退と日本」。ここからは、本書の論考が米国が衰退局面にあるという認識からスタートしているように見える。もちろん筆者はそう考えているのだが、それを前提として論を進めているわけではない。「第2章『アメリカの時代』は終わるのでしょうか」では、米国の現状や中国の台頭に関して、多くのデータを提示するだけでなく、米国はもちろん欧州各国等の政治学者等の意見を紹介し、「アメリカ時代の終わり」を検証する。
 こうした手法は全編に及ぶ。「情報革命は国際政治に影響するでしょうか」「『アメリカ時代の終わり』で世界秩序はどうなるのでしょうか」「平和的手段の構築は可能でしょうか」「日米四つの脅威をどう考えればいいのでしょうか」。各章のこの疑問形のタイトルに対して、丁寧に欧米の学者や評論家、メディア等の議論を伝え、米国のネオコン・グループの論がいかに世界の中では米国覇権主義に凝り固まっているかを示していく。
 中でも第4章「平和的手段の構築は可能でしょうか」では、アメリカの覇権主義的な世界戦略がなければ、多くの国がウィン・ウィンの関係をめざすことで紛争は減らせることを示していく。第5章では、中国、北朝鮮イスラエル、イランの具体的な脅威に対して、米国政界がいかにイスラエル・ロビーや軍産共同体に支配され偏重しているかを示し、平和的な解決の道を提言する。
 右派・左派、それぞれの議論を平等に紹介することでややわかりにくく難しい内容となっているが、その分、説得力はある。偏重した日米政界の誤りをよく理解できる。

これから世界はどうなるか―米国衰退と日本 (ちくま新書)

これから世界はどうなるか―米国衰退と日本 (ちくま新書)

●日本の財務省首脳や金融機関の首脳は、誰と一体感を持っているのでしょうか。日本人として、「国民と一体であり、共通の価値観を持っている」と意識しているのでしょうか。・・・彼らの言動を見ると、「米国を中心とする金融関係者と共通の価値観を持っている」という意識だと、私は考えます。(073)
●現代では、戦争して相手国の富を奪うことがかつてのようにはできませんから、どの国にとっても戦争は経済的に莫大なマイナスを招くだけです。この自明なことが、今日、米国ではほとんど議論されていません。広い視野に立てば、武力紛争は巨大な浪費、戦争がなければ人類は巨額のプラスを生むのです。(P107)
●国家間同士の戦争は減少している。これに加え、テロを行っているグループと政治的妥結を図ることができないかを考えれば、世界から紛争は大幅に減ります。さらに、米国が「国際的環境の改善のために軍事行動をする」という傾向を排除すれば、軍事紛争の可能性はほとんどなくなります。(P117)
●係争から抜け出すきっかけは「領土以外に重要な課題がある」と、両国が気付くかどうかです。その意味で、”勝利”とは、敵対する者との関係ではなく、自分自身の価値体系で意味を持つのです。今日国際社会では、ゼロサムゲームから、ウィン・ウィンをめざす動きが強化されています。(P147)